フィルム1945

真生麻稀哉(シンノウマキヤ)

第1話

2017年8月15日


一本の古いフィルムが、古い日本家屋から見つかったニュースが流れた。

そのフィルムにマジックで書きこまれた日付は


「1945年8月15日」


ちょうど72年前の未現像フィルムだ。


このフィルムに収められた写真は、長い悠久の時間(とき)に耐え、現像され、

多くの人の目に触れることとなった。


その経緯を伝える女性ニュースキャスターは、すぐには信じることのできない「事実」に、

全身が震えるのを必死でこらえていた。



フィルムには、一通の手紙が添えられていた。

手紙を書いたのは、その日本家屋に住んでいた杉本健作(すぎもとけんさく)86歳。

彼は、フィルムが家族の手によって見つかる二日前に、肺炎で亡くなっている。


子や孫たち大勢の家族に看取られ、死ぬ間際に彼が残した言葉は、家族への「ありがとう」でも「さようなら」でも「幸せだった」でもなく、3つの数字だった。


「7・3・1」


それが、彼がこの世に、いや、1億の人たちに向けて放った、最期の言葉だった。

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