12-3
断れることならちゃんと断ろう。そして、友人とはいえ安易に信じてはいけない。それは生徒会入会を経て一番に学んだことだ。
「どもっ! 写真部です。予算ファイル提出が遅くなってスミマセーン」
立て付けの悪いスライドドアを勇ましく開けて入ってきたのは、見覚えのある顔だった。
「あ、許斐くんと……えーと、越路くんだよね。こんにちは」
見覚えはある。名前はわからない。おまけに書類の整理も終わらない。
「
提出された予算案と決算を照らし合わせながら、同級生の話に相づちを打つ。
「ん、よろしく巽さん」
「あなた人の話聞いてないでしょ」
「ハセ、この計算合ってないぞ」
「ちょっと、言ってる傍から……」
なんだか不機嫌そうな女の人が前にいる、くらいの意識しか働いていなかった。
「えー、俺のせいじゃないよ」
「自分に報告しろって言ったのお前だろ。僕は間違いがあったから報告しただけだ」
「はー、なんでこうも間違いが多いんだよ。ここ一応頭いい高校なんじゃないの?」
「数学が得意で算数が苦手なんだろきっと」
ため息と咳払いばかりだった彼女が静かになったと思ってそちらに目をやると、至極面白そうにこちらを見ていた。
「ふふっ面白いんだ。君たち仲いいんだね」
そう言って僕たちを見つめる細い瞳は挑戦的で、冒険心を隠しきれていない。
「そりゃあ俺とケンの中学からのラブラブっぷりは今も健ざ……」
「冗談も大概にしてよ」
パシャ。
手に持っていたファイルでハセの頭を叩いた瞬間、打撃音とは違う音が生徒会室に響いた。
「……え?」
「なにこっち見てんの。被写体がカメラ意識しちゃ駄目でしょ」
「あっはっはっは、いやいやいや……」
「……あのねえ」
これにはハセも僕も反論せざるを得ない。でもハセは反論しつつも一人で爆笑している。そちらはとりあえず放っておく。
「なに勝手に撮ってるの」
「素晴らしい被写体に出会ったらレンズを向けることは、写真部員の二つ目の呼吸法よ」
「意味が分からないから日本語でどうぞ」
「やっぱりあたしの話聞いてないでしょ。……あと、私もなんか愛称で呼ばれたい。やっぱり二人に合わせてマナかなぁ」
独り言を言ってる間にも彼女のテンションは留まるところを知らない様子だった。僕は思い切って席を立つ。
「今日はもう帰ってよ、僕たちまだ仕事あるし」
「えー、いいじゃん別に」
ぶつくさと文句をぶつける彼女の背中を押して扉の前まで強引に連れ出す。
「ちぇ。ケンは真面目なんだねえ」
彼女は早くも愛称で呼び始めた。まるでハセくらいの長い付き合いであるかのように。
「今度は仕事がないときにゆっくりすればいいだろ。それじゃね」
そう言い残して僕は扉を閉め切った。
「……俺よりマナさんとの相性が良さそうだね、ケンちゃん」
「変なこと言わないでよ。あと、気色悪い呼び方をするな」
「照れちゃって」
「仕事しろ」
そうしてまたすべての部活の会計報告書の処理を淡々とこなす。
(仕事がないときにゆっくり、か)
自分で言ったその言葉に瞳を輝かせたあの写真部の彼女の顔が、いつまでも頭に焼き付いて離れなかった。
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