第8話 逆鱗撃ち
「あたしが、スイープにつきます」ローレライがドスの利いた低音で割り込んでくる。
「それは許可できない。逆鱗を砕いたあとは、銃兵の出番だ。おまえにもしものことがあったら、元も子もない。ミコト、転生兵のバックについてくれ」
「はい」黒髪の女の子の画面が開く。「転生兵さん、逆鱗は顎の下。1枚だけ反対方向へ生えた、矛先みたいにとがった色の薄い1枚です」
そこでガリッとチャンネルの切り替わる音がする。
「みんな聞いてくれ。転生兵が逆鱗撃ちに挑む。もう時間がない。一度切りのチャンスだ。全員、転生兵のサポートに回れ。鱗剥ぎはローレライがやる。各員は位置につけ。転生兵! 槍を取れ! 突撃だ! 仲間を守るために命をかけろ! それが電装竜騎士だ!」
カズマはヴォルテックス・ゼロを遥か遠くを泳ぐバハムート・クランへ向けると、スロットルを全開にした。機首を敵に向け、浮き上がろうとする機体を操縦桿で押さえつけて、真っすぐに加速させる。どん!という衝撃がきて、機体が音の壁を超えた。騎士団の飛行隊列から一機のドラグトゥーンが飛び出してきて、彼の後衛につく。
「ミコトと申します」黒髪の女の子が会釈がわりに目を伏せる。
「カズマです」軽く目礼で返した。
前方でバハムート・クランの背中から火球が打ちあがり、上空でこちらを向くと、気味の悪い単眼を向け、燃える火の玉となってすっ飛んでくる。後方のミコトが素早く反応して上昇し、巨大なアサルトライフルを構えると、スコープを顔の前にもってきて三度、速射を浴びせて眼ビットを撃ち落とした。
「うるさい目ん玉は、あたしが撃ち落とします。ご安心を」
カズマはうなずくと、スロットルレバーについた赤いボタンを押し込んで、アフターバーナーに点火した。ヴォルテックス・ゼロが興奮した猛獣の様に身震いし、バハムート・クランへ向けて突撃する。向かうは巨大な敵の腹の下。
「へ? カズマ、そっちから行くの?」
ミコトが驚きの声をあげる。
「腹下からまわりこんで、首の下を飛び、顎の下へむかう」
「でも、カズマ。バハムート・クランがもし首を持ち上げていたら、逆鱗がどこにあるか見えないよ」
「前方に巨大な積乱雲があり、このコースならバハムート・クランは、あの雲のてっぺんにある細い谷間を抜けるだろう。その瞬間なら、こいつは絶対に首を伸ばしてるはずだ。そこにタイミングを合わせる。どうかな? 無理だと思う?」
「はは、面白いと思うよ」ミコトは破顔する。「そんなこと考えた人、きみが初めてだよ」
言いながら彼女は目線を上に向け、何度かトリガーを引く。頭上で新たな眼ビットが砕け散った。
カズマはもう上を警戒するのをやめて、巨大な磨羯魚が抱えてるNIA203便の下方に回り込んで、旋回し、減速をかける。まるで空飛ぶ島のようなバハムート・クランの下方にもぐりこむと、巨体が太陽を遮って周囲は暗い。前方、すぐ近く。巨大な積乱雲が迫っている。バハムート・クランは水に飛び込もうとする海鳥のように、蛇みたいに長い巨体をずずずーっと伸ばした。
よし。今だ。
カズマはヴォルテックス・ゼロにフルスロットルの鞭をくれ、足元の大槍をとりあげる。電源を入れると、先端部の発生器が作動し、グリーンの光輝で形成させた刃が伸びる。そしてその刃が、残像を残すほどの高速で回転しだした。
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