第4話
本番当日。
俺は昨日の夜の衝撃を心に残したまま、学校へ赴いた。
さすがに強豪。地域からしたら、楽しいイベントでも、音楽室に走る緊張感は並ではない。
今日は、楽器を会場に運ぶトラックが来ているので、いつもより早く学校へ来た俺含め部員たちが、楽器を積み込む準備をしていた。
「トラック来たよ!並んで!」
(((はいっ!)))
速水くんの言葉につられるように俺も並んだ。
トラックの運転手の方が、降りてきた。
「はい。よろしくねー。」
と言われるや否や、速水くんが、
「お願いします!」
(((おねがいしますっ!)))
朝早いというのに、素晴らしい挨拶だ。
毎回毎回脱帽する。
俺がぼーっとしているうちに、既に積み込みが半分以上終わっていた。
それも、トラックの人の手を借りずに。
「この子ら、ほんとに高校生…?」
そうこうしているうちに、わずか15分でトラックへの積み込みが終了した。
「幹部以外出発準備ー!」
((はいっ!))
福田さんの一声で部員が動いた。
ちなみに「幹部」というのは部長、副部長、顧問の代わりに、合奏練習を指示する、学生指揮者という役職で構成されている。
「おーし。じゃー予定の確認するぞー」
…ものすごい福田さんに睨まれた。
(こっえ…)
恐る恐る福田さんの方を見ると、学生指揮者の人がいなかった。
「あれ…もう1人は?」
突然2人の顔が曇った。
「いーよアイツは。続けよ。」
「あ、ああ…」
もやもやした中で俺は予定の確認をした。
「よし。じゃあ学校の鍵閉めるから、幹部は部員連れて先に出発しておいて。」
(はいっ!)
皆が学校を出たあと、そう言えば練習の時、学生指揮者をやっていたのは速水くんだったことを思い出した。
(なんで前に出てこないんだろう…幹部なのに…)
会場に着き、楽器を積み下ろし、全員が音出しをして最終リハーサルの準備をしていた。
リハーサルの時間は、20分間。
人数の関係上移動に5分。そして、5分前には本番スタンバイをしなければならないから、実質音を出せるのはわずか10分。
非常にタイトなスケジュールなのだが、部員は涼しい顔でこなすのだ。
そんなことを考えていたら…
パンッ!
誰かが手を叩く音がした。
「…リハーサル。」
瞬間部員たちの顔が曇ったのが分かった。
(あの子は…)
海山高校主席、吹野 涼。
進学校であるこの高校で、未だ主席の座を譲らず、海外のプロ吹奏楽バンドからも、目をつけられている、勉学、音楽ともに才能溢れた青年だ。
(でも…職員室では話を聞かないな…それに、なんで皆顔が暗いんだろう…)
物思いに耽っていたら、10分とはあっという間で、「…おしまい。」というや否や全員がいっせいに動き出した。
今日俺は皆に直接なにかする訳では無いが、昨日のあのことも含めて、確認しておかなければならないことがあった。
そして…欄祭りが始まった。
「やっぱり…」
今回参加している高校は海山高校を含めて3校だ。
既にトップバッターである、海川高校は演奏を終了していた。
低音楽器の聞いていて安心感のある音。
トランペットを初めとする金管楽器の華やかな音色。
木管楽器はあまり聞こえないとよく聞くが、音が響きにくい外など気にもしないかのように、心地よい音色を響かせていた。
何より驚くのは動きだ。
あ、ずれた。と思うところが一切ない。
2校目の藤原高校も然りだ。
欄祭りに来ている人たちも、この3校は全国常連校だと知っているから、もちろん上手なのだろうと期待している。
そして、海山高校の演奏が始まった。
俺は顔を覆いたくなった。
それと同時にお客様自身んがざわざわし始めた。
(え…海山どうした…?)
(去年と違うよね…)
海山高校は…下手になっていた。
前顧問が、移動になってしまったショックなのか、2校の足元にも及ばないような演奏をしている。
(これは…マズイな…)
そして演奏が終わり、みんなが死んだ魚のような目をして戻ってきた。
「急いで積み込め。帰るぞ。」
「はい…」
速水くんなんて今にも死んでしまいそうな勢いで意気消沈している…
ついでに言うと福田さんはイライラがオーラに出ていて一層怖さを引き立てていた。
吹野くんは相変わらず表情を変えない。
俺は顧問として初めての指示を出した。
「みんなで話し合って。今後どうやって部活をやっていくのか。」
そう指示を出し、音楽準備室へそそくさと逃げた。
(とりあえず、本音が知りたいからな。趣味悪いかもしれないけど、盗み聞きさせてもらおう。)
「じゃあ皆、話し合おう?」
速水くんがそう言うと、突然、吹野くんが、「祐也さぁ…そんなんだからだめなんじゃん。」
(…!?)
俺はびっくりして動けなかった。
「はぁ…?涼何言ってんの?そんなこと言うんだったらあんたがやればいいじゃん!」
「紗奈もそーやって言ってるけどさぁ、結局やるのはそこの使えない部長さんじゃん。」
「…!!」
どうやら速水くんが出ていってしまったらしい。
俺は慌てて速水くんのあとを追った。
「…速水くん。」
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