気まぐれ神

そへ

気まぐれ神


昔、気まぐれかみという神がいた。


名前の通り、気まぐれで、度々たびたび人間界を困らす神だった。


そして今日も、気まぐれ神は人間界をさまよっていた。


すると、ある人間を見つけた。小さな女の子だ。


「あの子にいたずらをしてやろう。」


しめしめと彼女に近づいた神は、化物の姿に変身して少女を驚かせようとした。


「ばあ!」


しかし少女は、


「誰かいるの?」


と言って全く驚きもしなかった。


気まぐれ神は悔しくて、


「私は気まぐれ神だぞ!なぜ驚かない!」


と声をあらげた。


すると、


「あなた神さまなの?ごめんなさい。わたし、目が見えないからわからないの。」


気まぐれ神は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。


「神さまってなんさいなの?」


少女が質問をしてきた。


気まぐれ神は、


「もう3000歳になるかなあ。」


と答えた。


「じゃあ、お母さんとお父さんはいるの?」


また少女が質問をしてきた。


「いないよ。神は、無から生まれるからね。」


するとまた、気まぐれ神は質問に答えた。


すると少女は、こう言った。


「じゃあ、わたしといっしょだね!わたしもお母さんとお父さん、いないもの。ちょっと前にびょうきで死んじゃった。」


気まぐれ神はこの子を不幸だと思った。


だから気まぐれ神は、気まぐれを起こした。


「じゃあ、私が親になろう。」


「ほんとう?ありがとう神さま!」


それから気まぐれ神と少女は、一緒に暮らした。


「神さま、おはよう!」


「神さま!いっしょにあそぼう!」


「神さま、りんご食べよう!」


「神さま、おやすみ…」


気まぐれ神は生まれて初めて、愛情を持った。


少女が本物の家族のように思えた。


ある日、気まぐれ神は少女を寝付かせていた。


「ねえ神さま…」


「なんだい?」


「私、目がほしい。神さまを見たいから。だいすきな神さまを、いっぱい見たいから。」


気まぐれ神は、その時、少女の願いを叶えてあげたいと心の底から思った。


だが、少女の目を治すことは非常に難しかった。


人間の目を治すには、魔界にある秘密の花が必要だったのだ。取ってくるには険しい魔界を冒険しなければならなかった。


しかし気まぐれ神は、こう言った。


「私がお前の目を治してやろう。」


こうして、気まぐれ神は少女を寝付かせた後、魔界へ秘密の花を探しに行った。


それはとても険しい道のりだった。


嵐のように吹く風、


ノアの大洪水にも負けない波、


水一滴すらない砂漠、


太陽さえ凍りつく氷河、


魔獣達の巣食う洞窟、


これらをボロボロになりながらも乗り越え、気まぐれ神は秘密の花を手に入れた。


そうして気まぐれ神は少女の元へ戻り、


「秘密の花を持ってきたよ。これでお前の目は治る。」


「わあ!ありがとう神さま!」


そして気まぐれ神は花の汁を一滴垂らし、少女に掛けた。


するとみるみる少女の目は治り、少女はついに完全に目が見えるようになった。


「やったわ!わたし、目が見えるようになったわ!神さま!」


しかし少女が気まぐれ神の方を見た時、そこには何もいなかった。


「神さま?」


すると、テーブルの上に、紙の切れ端が置かれていた。


それには、こう書いてあった。

――――――――――――――――――――

お前はもう目が見えるようになった。

もう1人で生きて行くことができるだろう。

私は行かなければならない所がある。

だからお前とはもうお別れだ。

でも私は、お前のことをずっと見守っている。


愛しているよ。永遠に。


神さまより

――――――――――――――――――――


少女は泣いた。朝まで、ずっと。


しかし気まぐれ神は、少女の前に姿を現すことはできなかった。


なぜなら、魔界の旅のせいで、気まぐれ神はボロボロになっており、今にも死にそうだったからだ。


少女を心配させたくなかった気まぐれ神は、少女との別れを選んだ。


しかし気まぐれ神は、嬉しかった。


最後に、彼女の目を治してやれたからだ。


そして気まぐれ神は思う。


「私の人生は、気まぐれだったけれど、あの子を助けたのは私の意思だ。最後に自分のやりたいことをやれて、本当によかった。」



そうして気まぐれ神は、塵となって、美しい空へと飛び立った―――








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