第8話 だから言ったじゃん!!

 蓮と健ちゃんは少しずつだけど仲良くなって行った。いや、健ちゃんが妥協してるだけだと思う。

あたしは優香の引越しを手伝うために大阪に行った。こっちに来てから何度か行ったことはあるけど、まだ土地勘がない。

とりあえず、優香の荷ほどきを手伝った。意外と荷物の少ない優香のワンルームは半日で片付いた。お昼すぎ、あたしたちは思い立った。健ちゃんのところに行ってみよう!!

土地勘のないあたしたちは聞いていた住所を探り探りだがなんとか着いた。

インターホンを鳴らすと健ちゃんが出て来た。

何も言わずに来たあたしたちにかなりびっくりしてる。

健二郎、誰?っと言いながらまさかの蓮が出て来た。

あたしたちはかなりびっくりした。え?休みまで一緒にいるの?!

 「みい!!俺に会いに来たんだぁ?!」

いやいや。なんで?ここ健ちゃん家だよね...。どう考えても違うよ...。

 「とりあえず上がって。散らかってるけど。」

フリーズしてるあたしたちに健ちゃんが声をかけた。

健ちゃんの部屋は前と何も変わらなかった。あたしも優香も目を合わせてそう思った。ただ、きっと一緒に勉強してたんだろう。いろんな本が開いたまま散らかっていた。それを片付けながら適当に座ってという健ちゃんに、自分の家のようにコーヒーを入れる蓮。そしてそのコーヒーをあたしたちに渡した。家主かよっとツッコミを入れたくなった。

 「二人ともどうしたの?急にきて。」

そう聞く健ちゃんに、優香が答えた。

 「みいが引越しの手伝いに来てくれたの。でも思ったより早く終わったから、健ちゃんの様子見にきた。」

 「そっかぁ、拓巳は?あいつもそろそろ引越しじゃない?」

 「拓巳は来週だよ。卒業式終わった後に業者任せだって。」

 「拓巳らしいな...。さすが3代目は違うねぇー。」

 「あぁーみんな行っちゃうんだね。さみしいなぁ...。」

 「みいは卒業したらどうすんの?大学残る?」

 「うん。とりあえず大学病院残るかなぁ。研修はこっちでしないって思ってるし。」

いつものあたしたちの会話だった。蓮はそれを黙って聞いていた。でも、最後の一言にだけ反応した。

 「はぁ?お前卒業したら帰ってくるんじゃねーの?!」

 「え?帰らないよ??」

 「約束違うじゃん?!フライトドクターは?黒田先生の下で働きたいんじゃねぇの?」

 「ばか。卒業しても4年は研修医なんですけど...。」

 「研修医ってどこでも出来ねぇの?悠さんまた泣くぞ?!てか、母さんもみい帰ってくるの楽しみにしてるのに。」

 「あたしにも事情ってものがあるの。パパだって分かってくれるよ...。」

 「いや。あの親バカはわからねぇ。俺しらねぇー。」

 「別に蓮になんとかしてもらおうと思ってないもん!!」

 「ねぇ、みいのパパってそんなに親バカなの?」

 「そりゃあ、娘が1番。みいの欲しいものはなんでも与えるし、こっち来る時だって大変だったもんなぁ。」

あまりあたしは自分の話をしてこなかった。なのにおしゃべりな蓮は止まらない。

そんな蓮に、優香も健ちゃんも質問ぜめにした。最悪だ。来なきゃ良かった...。

 4人で話をしてたら夜になっていた。晩御飯どうする?っとなり、もう面倒だからと宅配ピザを頼んで、すっかりパーティー状態だ。

あたしは京都まで帰らないといけない。もうそろそろ帰ろうかなぁっと思った。

 「じゃああたし、もう帰るね。」

そう言ってコートを手にしたら、蓮がその手を止めた。

 「なんで?今日泊まっていけばいいじゃん。」

 「はぁ?ここ健ちゃん家だから。」

 「いやいや、俺ん家だよ。」

 「なんで?やだ。」

 「やだ?なんで?」

 「なんかあったらどうすんの?どうせ蓮のことだからもうバレてんでしょ?」

 「バレてねぇーよ。ここどこだと思ってんの?」

 「自分じゃ自覚ないんだね...。蓮はRENなんでしょ?」

 「東京じゃないんだから。ってかお前今からそんなんで帰ってたらどうすんの?それこそ家隣なんだけど?」

 「え?東京戻っても実家に帰るつもりなの?」

 「うん。だって俺ん家なんだもん。」

 「そう。じゃあ、健ちゃんまた来週ねー。優香も気をつけて帰りなよ?」

 「おい。こんな時間に一人で帰せるかよ。それこそ俺がお前の親に怒られるわ!!しょうがないから俺が送って行ってやるよ。」

 「いいって。蓮が帰れなくなるよ?!」

 「みいの部屋に泊まる。」

 「大丈夫だって。あたしだってもう大人なんだから...。」

あたしは健ちゃんの部屋を出て走った。なんであんなに心配性なの?!あたしはもう22歳の大人なの。一人でちゃんと帰れるっつーの!!


 「ねぇ、みいって蓮くんの前じゃすごい頑固だよね。」

 「蓮に構われたくないんじゃないか?これじゃみいだってうざいって思うだろ。」

 「健二郎、俺そんなうざい?!酷くねぇ?!みいはそんなこと思ってねぇよ...。」

 「きっとみいは蓮くんのことが心配なんだよ?特に蓮くんが有名になってからは、自分が一緒にいちゃいけないって思ってる。去年のトレンド入りするような蓮くんと一緒にいたら迷惑かけることがあるでしょ?ファンとかマスコミとかね。」

 「そんなこと、あいつが気にすることじゃねぇ...。」

 「蓮、お前がみいを大事に思うようにみいだってお前が大事なんだよ。」

 「でも、あいつは自分が思ってるより、いや...その辺のタレントなんかより美人なんだよ!今なんかあったら俺...昔から決めてるんだ。何があっても俺が守る!!」

走り出した蓮は止まらない。いつだってみいの背中を見守ってた。わざと先に行かせ、いざとなったら前に出て守ってきた。あの時だって、これからだって。いろんな世界を見ればいい。俺はそのすぐ後ろで同じ景色を見よう、危ないと思ったら盾になるから...。


 走ってここまできたけど、ここどこ??駅は??あのコンビニで聞いて見よう。

そう思って近づいた。すると、近くにいた男2人組が話しかけてきた。

 「お姉さん何してるの??俺らと飲みに行かへん?」

 「いや、いいです。」

 「えぇー!!行こうや?いいところ知ってんで?」

 「すいません。急いでるんで...。」

 「どっか行くん?送って行ったろか?」

 「いいです。一人で行けるんで。」

 「みい!!だから言っただろ!!ほら、行くぞ。」

息を切らせた蓮があたしの腕を掴んだ。するとさっきの男2人組が逆上した。

 「いやいや、お前なんなの?」

 「お前らこそなんだよ。俺の女に手を出すな!!」

 「お前どっかで見たことあるな...。」

 「こいつRENじゃねぇ?!」

 「マジで?!まさかこんなところにいるなんてな。」

やばい、すぐバレた!!だから言ったじゃん!!!あの二人組は写メを撮り出した。一人はムービーを撮っている。

 「スクープやん!!RENに彼女いたなんて。俺らに謝ったら消してやるよ」

 「撮りたきゃ撮れよ。女ナンパしてるお前らなんかに謝るかよ。行くぞ!!」

腕を掴んだまま引っ張る蓮にあたしはついて行くしかなかった。

 「だから言っただろ。最初から俺の言うこと聞いとけよ。」

確かに。あの二人組はあたしたちの写真をどうするつもりなんだろう...。

SNSで拡散したりして...あたしはいいけど、蓮は?やっぱりダメだよね...。

 「おい、なんとか言えよ。」

 「うん。ごめん。あたしが悪かったです。」

 「それでよし!今日は俺ん家行くからな?」

 「はい...。」

あれから15分ぐらい歩いたところに蓮のマンションがあった。

さすがにセキュリティーは完璧だ。1Rかと思ったら1LDKだった。

 「みいは寝室のベッド使いな。俺はリビングのソファーにいるから。」

風呂はこっち、ここはトイレ。歯ブラシはこれしかねぇなっとどこかのホテルの歯ブラシを出してきた。

 「あのさぁ...蓮がベッド使いなよ...。」

 「何言ってんの?みぃをここに寝かすわけにはいかないよ。」

蓮はそう言うとあたしの手を引いて寝室へと連れて行き、ベッドに押し倒した。

 「何なら一緒に寝る?」

少しづつ近くニヒルに微笑んだ蓮の顔は、あたしが知らないRENに見えた。

別に泣きたいわけじゃない...。なのになぜか左目から一滴の涙がこぼれ落ちた。

 「はい失格。お前そんなんじゃすぐ男に喰われるぞ?」

ゆっくり目を開けると、キスしそうなぐらい近づいた蓮の顔は元の蓮に戻っていた。右の親指でゆっくりあたしの左頬に流れた涙を拭い、そのまま部屋を出て行った。

 

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