第4話 はじまりの日に

  優香の部屋で4人揃って朝を迎えた私達は、片付けをして各自の部屋に帰った。時刻はお昼になろうとしていた。もうすぐ家具が届く時間だと思っていたらインターホンが鳴った。ソファーや机や棚や寝具など、言ったところに置いてくれたお陰ですぐに部屋らしくなり本当に助かった。他の片付けなどをしていたらすぐに1日が終わってしまった。

部屋に付いているロフトをベッド代わりにしようとマットレスと布団をロフトにあげて、小さな寝室みたいにするとすごく落ち着いた。ここが今日から私のお気に入りの場所だと思って寝転がるとすぐに眠りに落ちてしまった。

翌日になり、今日はパパとママがこっちに来る日だ。楽しみに二人の連絡を待っているが一向に連絡がない。どうしたんだろうと思って連絡してもどっちも電話に出ることが無く、もう昼が過ぎようとしていた。

私がそわそわして時計を見ると5時になろうとしていた。

そしてため息をついた途端にインターホンが鳴った。

慌てて取ると、パパとママがいて急いでオートロックを開けた。

部屋まで上がって来るのも待てず、扉を開けて待っているとエレベーターが開き、パパとママが降りてきたけれど、何故かそこには蓮もいた。

「みい、ごめんね遅くなって。」

ママが申し訳なさそうにそういうと、パパが呆れたように言った。

「昨日から蓮が、一緒に行くと言って聞かないんだ。だからこいつの入学式終わるの待ってたらこんな時間だよ。」

そう言って蓮を指差すパパ。結局パパとママは昔から蓮に甘いと思う。

「俺のせいかよ。悠さんだって中々部屋から出てこなかっただろ。」

「しょうがないだろ。仕事でトラブルがあったんだから仕方ないだろ。」

部屋の前で言い争いをされたら迷惑だ。とりあえず三人を部屋に入れた。

「ちゃんと片付いてるじゃない。これなら安心だわ。」

ママがそう言ってパパを連れて出て行こうとしたので、私は驚いて引き止めた。

「え?どこ行くの?今来たばっかりじゃん。」

「片付いて無かったら手伝おうと思ってたけど必要無かったみたいね。だから今からパパをデートしようと思って。」

「そうだな。最近忙しかったし、せっかくの遠出だから旅行がてら行くか?!」

まさかのパパも乗り気だ。

「じゃああたしも行く!!」

「みいが来たらデートじゃないじゃない。」

「晶ちゃん!ちょっと待ってよ。俺どうすんの?!」

「蓮はここにいれば?そもそも私達ホテル取ってるけどあなた取ってないでしょ?」

「ママなに言ってんの?!パパもなんとか言ってよ!!」

「パパはママがそういうならそれでいいと思うけど。そういえば一昨日お前らまた何かあったんだろ?せっかくだから仲直りしろよ。蓮はソファーにでも寝かせてやれ。」

パパがそういうと、二人はまさかの腕を組んで出て行ってしまった。

仲がいいのは良いことだけど、これはあんまりだ。

そして私の部屋に、機嫌の悪い蓮と私が取り残されてしまった。

気まずい空気がこの部屋を支配しようとしていた。

とりあえず晩御飯の支度でもした方がいいのかな?そう思った私は近所のスーパーへ逃げようかと思い立った。

コートへ手をかけると蓮が私の手を止めた。

 「どこ行くんだよ。そんなに俺が来たのが迷惑?とりあえず座れよ。」

蓮が私の手を引いて、さっき届いたばかりのソファーへ座った。

そして、何も言いださない私に蓮が口を開いた。

 「心配してたんだよ。俺だけじゃない、姉ちゃんも惟人もみんな。お前のこと守ってやるやつ誰もいないじゃん?晶ちゃんも悠さんだってあんなだけど誰よりも心配してるんだ。誰よりも寂しがりで、泣き虫で、勉強しかしてこなかったお前がちゃんと生活していけるのか、一人で泣いてるんじゃないかって。だからこないだはきつく言い過ぎたって思った。お前はほっといて欲しいかもしれないけど、残されたこっちの身にもなれよ。いつもいたところにいないのはみんな寂しいんだ。俺だって、生まれてからずっと隣にいたみいがいないのは寂しいんだよ。俺は誰と喧嘩したり、笑ったりしたらいい?みいはそんなこと少しも思わない?」

いつもみたいにふざける訳でもなく、怒る訳でもなく、ただ真剣に問いかけてくる蓮を見ていると、少し込み上げてくるものがある。

 「あたしは、すべて覚悟してここに来た。新しい生活に寂しいとか辛いとか弱気になることはダメだって思ってる。だからそんな感情はあの場所に置いて来たつもり。でも、みんなのことが大好きなのは変わらない。あたしは、自分のことしか考えてなかったね。ごめんね。蓮が言ってくれるまで気づかなかった。ありがとう。でも、あたしは大丈夫。きっと楽しくやっていけるから。」

 「みいはすぐ無理をするから、どうしてもキツイときはすぐに言うこと。あと、一週間に一回は、何があったか連絡すること。いいな?」

 「一週間に一回?!多くない?せめて1ヶ月にしてよ...。」

 「多くない。なんなら毎日でもいいけど?」

 「じゃあ一週間でお願いします。」

蓮への課題が増えたところで、彼は納得したのか私の頭をぐちゃぐちゃに撫で回した。そして私に言う。

 「ってことで、ここであったこと話して?優香って誰?お前の隣にいた男は誰?」

笑顔を浮かべながらそう聞く蓮に問い詰められ、素直に話してしまった私もなんだかんだ蓮に甘いんだろうなと思った。

 ここに来てからの話をしていると、時間は思ってたよりも過ぎて、外はすでに夜になっていた。結局、晩御飯の支度はできずに、二人で近所の小さな居酒屋さんに入った。夫婦2人で営んでいるその居酒屋さんは未成年の私たちを迎え入れてくれた。

結局、寝るときも気づけば一緒に寝ていた。まだ小さな子供の頃、一緒に寝ていたときのように。

そして気づいたこと...。

ただ、蓮の隣にいるときが一番居心地がいい。安心するのかもしれない。


 朝が来て、入学式当日。あたしたちは一緒にマンションを出た。

すると後ろから優香の声がした。

 「みい!!おはよー!!」

その声で振り向いたあたしにつられて蓮も振り返る。

 「優香?!おはよう。」

 「みい、彼氏いたんじゃん...。嘘つき...。」

そう言う優香の顔は半笑いだ。

 「違うよ..。この前話した蓮だよ...。」

 「初めまして、優香ちゃん。このバカと仲良くしてあげてね?」

誰がバカだ!!と思ったが、優香の目が輝いていたので何も言えなかった。

 「蓮くん!?ヤバ...。想像以上にイケメンじゃん。正直イメージと真逆。」

そう言って大爆笑の優香に蓮がお得意の爽やかキラースマイルで優香を落としにかかる。

 「優香、それ以上言うとバカが調子乗るよ。ってかもう調子乗ってるし。」

あたしはその言葉を残こし、優香の手を引いて走り出した。

 「みい!!俺を忘れてるって!!」

そう叫びながら蓮が追いかけて来た。すぐに追いついた蓮は、あたしの空いている方の手を掴んで「俺のこと忘れるとか信じらんねぇ...。」そう呟いてあたしと繋いでいる手をブンブン振り出した。

はぁ、っとため息をつくあたしを見て優香は大爆笑だった。

そんなあたしたちを後ろから拓巳くんと健ちゃんが見ていることに、あたしは気付かなかった。

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