第52話 法廷での決闘

 その日、光食堂は閉店していた。


 入り口には「本日は諸事情あって閉店します。店を閉めるのは今日だけで明日以降は通常営業を再開する見込みです。


 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


 店主の光より」


 と書かれた張り紙が張られていた。この日、光がいたのは裁判所。ついに脅迫相手との対決の時が来たのだ。




「これより公正な神の下、審議を開始する」


 裁判長の一言で、その裁判は始まった。


「まずは原告側の証言を聞こう。意見を述べよ」


 裁判長が言うと原告側、つまりは光の弁護士が証言しだす。


「はい。光さんは出来合いものの料理を出しているとのことですが、結論から申し上げましょう。


 彼女のやっていることは一切法に触れるものではありません。


 出来合いものの料理を出したとの事ですがそれくらいどこでもやってる事です。


 例を挙げれば港町で仕入れた魚をここ王都まで運んで売るのと全く同じことです」


「異議あり!」


 被告側が訴える。




「魚と料理とはわけが違うぞ!」


「違いません。これは料理でも言えます。


 卸売おろしうりと言いまして、例えばとあるパン屋で売っているパンをそのまま料理店におろしてその店が出す料理の付け合せとして出す、


 あるいはとある菓子屋が作った菓子をそのまま別の料理店に卸してその店のデザート類として提供する、


 なんてこともごく普通に行われていますし、それらに違法性は全くありません」


 だが弁護士はあっさりとかわして話を続ける。


「それに、出来合いものの料理を出しても構わないんですよ。


 何故なら彼女の店には「手料理を出す店」と公言はしていないのですから。


 そう言ってしまうと問題にはなりますが、そこに関して何も言ってないので何の問題も無いと思うのですが」




「原告側の証言を求める」


 裁判長が言うとアルフレッドとマクラウドが証言する。


「俺は光さんの弱みを握り金銭を脅し取っていたところを目撃しました」


「俺も見たぜ。酷いもんだったよ」


「異議あり! こいつら全員グルになって俺をハメようとしてるんだ!」


「でしたら我々が結託けったくしている証拠の提出を求めます。そこまで言うのなら当然持っていますよね?」


 被告人である灰色のキツネの男は追い詰められてはいるものの口の勢いは衰えない。




「大体ですね! 俺が脅迫したっていう確実な、覆しようがない証拠というものをあなた側は持っているんですか!?


 俺がしゃべったって言う決定的な証拠ですよ! それを持ってるんですか!?」


 被告人は口先だけは器用で劣勢であるにも関わらずに何とか立ち回っている。




「……あなたの言う決定的な脅迫の証拠、ありますよ?」


 そんな中光が唐突に漏らす。裁判所内にいる全員の視線が集まる。その先には右手に握られた謎の道具があった。


「これはボイスレコーダーと言って私の国で使われている会話を記録できる魔導器具のような物です。これが証拠です」


 そう言って彼女はボイスレコーダーを操作し、再生する。




『やぁ偶然ですねぇ光さん。会いたかったですよ』


『!! またあなたね! 何の用!?』


『今日も口止め料をいただきますよ。今日は特別大サービスで銀貨1枚に銅貨10枚で手をうちましょう』


『!! 値上がりしてるじゃない!』


『そりゃそうさ。値段は俺が決めるんだから。早くしろよそれとも国民の胃袋をだました詐欺師として紙面のトップを飾りたいのかい?』




『もう! しつこいわね! また口止め料をもらいに来たの!?』


『ああそうさ。今日は銀貨3枚だ』


『……随分値段が上がってるじゃないの』


『昨日の分に利子付ければこれくらいの値段にはなっちまうぜ?


 俺だってもう少し安くしたいんだが生活がかかってんだ。どうしてもこの値段になっちまってさぁ』




「……これ、あなたですよね?」


 その場にいた者の視線が一斉に男へと向かう。


「え……あ……う……いや……その…………これは………………」


 彼は焦点しょうてんが定まらない目をしながら血の気がさあっと引いて真っ青な顔をうつむかせたまま、轟沈ごうちんした。


 結局これが決定的な決め手となり、被告側の有罪が確定した。




【次回予告】


裁判で光側が全面的に勝訴した。その吉報を知った者たちが次々と光食堂を訪れた。


最終話 「勝利の宴 そして……」

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