第49話 チャーハン
「そういえばそろそろこの店に通いだして1年になるんだよな。早えな」
ようやく昼間は春らしい暖かな陽気になりつつある中『人狼』のあだ名で国内外に知られるアルフレッドは光食堂の前でそうつぶやく。
およそ1年前、いつものように給料日で入ったカネでどこかで食いに行こうと思って見つけた店が、オープンして間もないころでまともに客のいないこの店だった。
割としっかりした店構えなのに中には店主しかおらず、料金は貴族向けとしては異様に安く、庶民向けとしてはだいぶ高いという中途半端な値付け。
おかしなところが多い店だが出す料理だけは1級品で1発でとりこになり、部下の兵士にそれを教えたら口コミで広まっていき、今ではそれなりに客のつく店になった。
ドアを乱暴に開け、チリンチリンという鈴の音とバン! という荒々しくドアを開ける音を同時に立てて店に入る。
「オイ店主! 今日も食いに来てやったぞ!」
「あらアルフレッドさん、いらっしゃいませ。いつもごひいきありがとうございます。ご注文は何にしますか?」
「今日はチャーハンをくれ」
アルフレッドは常連らしく慣れた様子で注文を出しつつ、イスに座る。
「チャーハン」
「
何度も食っているが不思議と飽きない定番料理だ。
「そういや故郷には何年も帰ってねぇなぁ。手紙でも出すか?」
料理が来るのを待つ間、彼は望郷にふける。
アルフレッドの故郷は今住んでる王都からは遠く離れた地域で麦よりも稲作が盛んな場所。
そのため子供のころからパンよりもライスを食って育った身なのでこの国では珍しいライス好きであった。
実家では4男坊でまず家は継げない出目もあってか、10歳のころに故郷を飛び出し傭兵として戦場を渡り歩くようになった。
戦いが
最終的には騎士の称号を
「お待たせしました、チャーハンになります」
アルフレッドが故郷を思っている間に調理が終わったのかとん、と皿に盛られた調味料のせいだろうか茶色く染まったライスが彼の前に出される。
「お、来た来た」
皿に添えられていた、店主が言うには「レンゲ」なるスプーンの一種を手に取り食いだす。
具材に使っている卵はふわふわで味もいいし、刻まれたネギはほのかに甘く、それでいて香りがコメに移っておりそれも美味い。
刻まれて混ぜられた肉(店主が言うには「チャーシュー」なる肉らしい)もうま味がたっぷりで文句のつけようがないくらいに美味い。
コメは良く火を通されたのかパラッパラで白飯とはまた違う食感が楽しい。もちろんこの店ならではの美味いコメはチャーハンでも健在で、噛むたびに味が染み出す。
これらを全部まとめてかき込むように食うと最高だ。
「ふぅっ。相変わらず群を抜いて美味いな、この店の料理は」
メシをかき込む手を止めふぅっ、と息をつくと同時につぶやく。
実家にいたころに似たような料理を子供のころから食べていたがこの店の物には到底
もちろんプロの料理人がその辺のコメとは格が違う、特別なコメを使っている以上どう転んでも不味くなるわけがない。
試しに自炊してみたがコメも具の味もこの店の物とは程遠い物になってしまったのもうなづける。これは店でないと食えないと納得したものだ。
「ふう、食った食った。店主、また来るからな」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
アルフレッドが店を出ると同時に目に飛び込んできたのは……
「? あいつは確か……」
とある灰色の髪をしたキツネ族の男。何をするわけでもなく、店の前でただ立っていた。
「あの野郎、確か『キツネ族の恥さらし』とか言われてる奴だったよな。こんなところで何してるんだ……?」
アルフレッドも噂では聞いたことがある。国内では製造も行使も
とはいえただ立ってるだけなので彼としても何の手出しもできない。彼はその場を立ち去った。
アルフレッドが去った後、男は決定的瞬間をとらえた。
「ほほぉ、なるほどねぇ……それは一大事だ。悪を裁く正義の新聞記者としては黙ってはいれねえな。ククク……スクープだなこりゃ」
獲物を見つけ、男の目がギラリと光った。
【次回予告】
「取材」を続けていた「自称正義の新聞記者」が光食堂の秘密を握り、彼女に狙いを定めた。
第50話「脅迫 前編」
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