第17話 利理を継ぐ者

 異世界にある光の店、光食堂では順調に売り上げが伸びて諸々の税金を引いてもなお売り上げが貯まってきた。そこである問題に直面する。


「……これ、どうしようか?」


 問題とは、稼いだ異世界のお金である。異世界で流通しているお金なんて当然銀行に行っても換金してくれるわけがない。


 何とかして日本円にしないとタダ働きになってしまう。どうしようか?


「あ、そうだ! 古物商!」




 以前、古物商は昔のお金を引き取ってくれていると聞いた。


 異世界のお金も買い取ってくれるかもしれない。


 そう思うと光はスマホで検索して近場にある古物商をの店を探し当て、訪れることにした。


 店にはしわがれた老婆が一人で店番をしていた。




「いらっしゃい。……!? あれ! 利理りりちゃんじゃない! どうしたの!? しばらく見ない間にずいぶん若返ったような気もするけど……」


「いえ、違います。私は利理伯母おばさんのめいの光と言います」


「ああ、そう。姪ね。通りで似ていると思った」


「詳しくは言えないんですけどこの外国のお金、日本円に換金できますか?」


 そう言って光は古物商の老婆に異世界の銀貨や金貨を見せる。彼女はそれを見て何か感づいたのかピクリと反応する。




「……光ちゃんとか言ったかね? もしかして、利理ちゃんの仕事を継ぐつもりなのかい?」


「おばあさん、伯母おばさんの事を御存じなんですか?」


「まぁね。あの子はある日から異世界だとか言ったかの? その銀貨や金貨を持ってくるようになってね。すっかり顔なじみになったよ。


 しばらく見てないけど元気してるかい?」


「!! ……いえ。利理伯母さんは乳がんで亡くなりました」


「……そうかい。悪いね。変なこと聞いちゃって。


 まぁ異世界……ちゅうもんが私には良く分からないけど、どうでもいいことさ。こっちでも通用する金や銀で出来ている事には変わりないんだ。


 金銀の重さに少し色をつけて換金してあげるから持ってきなさい。とりあえず今持ってるのあるだけ全部買い取るよ」


 そう言って彼女は光の持っている金貨や銀貨を買い取ってくれた。




「じゃあこれが代金だよ。また来なさい、待ってるよ」


「ありがとうございますおばあさん」


 光は礼を言って現金をしまい、店を後にした。




 翌日




「!? 何だって!?」


「ですから、「本日をもってこの仕事辞めさせてもらいます」と言ったんです。ずっと皿洗いでしたから引継ぎなんて要りませんよね?」


「そ、そりゃそうだが……なぜ急に?」


「他にやりたい仕事が見つかったんでそこで働こうかと思いまして」


 光は皿洗いの仕事しかやらせてくれなかった勤務先の料理屋に三行半みくだりはんを叩きつけた。




「ん~……いいだろう。やりたい仕事が見つかったそうだな。まぁそこで成功するのを祈ってるよ」


「ありがとうございます。では今までありがとうございました」


 お互いに形式ばったやり取りをした後で、光はもう2度と来ることはないであろう店を後にした。




「お店か……私、自分の店を持てたんだ」


 それまでは日本の料理屋で皿洗いの仕事をして、お店経営はその余った時間でやっていたが、


 いよいよ店1本で食っていくとなると店を持てたという実感がわいてくる。


 正確に言えば「お店屋さんごっこ」と言える風体だがそれでも自力では決して叶えることが出来ない願いを叶えてくれるきっかけをくれた伯母おばに感謝した。




【次回予告】

光の店にはビールやワインなどのアルコール類も置かれていた。料理のお供なのでそこそこの量だったが、ある日それに関した事件が起こる。


第18話「アルコール」

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