第16話 カレーうどん
「カレーうどん、だと?」
「ええ。最近出せるめどが立ったんでメニューに加えたんですよ。」
せっかくの給料日だ。というわけで前に飯をおごる約束を果たすため、ヴェロボルグ中隊長と
直属ではないがその部下であるマクラウドの2名は光食堂を訪れた。
そして「カレーうどん」なるその新メニューを聞いて2人はピクリ、と反応する。
中隊長にとっては、新しいカレー料理。その部下にとっては新しいうどん料理。お互いの好みを足して2で割ったような料理だ。
「面白そうだな。分かった。カレーうどんを頼む」
「俺にもカレーうどんを頼む」
2人はそろってカレーうどんを注文した。
「……この店も結構にぎわってきましたね」
「へー、そうか。お前の方が長く通ってるらしいからそういうのも分かるんだろうな」
マクラウドは自分らと同じくこの店の料理目当てに来た客達を見る。カウンター席が10席ほどしかない店構えは変わらないが客は増えた。
その顔ぶれも背伸びした庶民から見回りついでに来る兵士、それにお忍びで来るのであろうコーヒーゼリーを必ず3つ頼む貴族までいるという、この店独特の客層が見て取れた。
「それにしてもこの店、ずいぶん前から気になってたんだがメニューがやたらと多いよな」
「そうですよね。そこは俺も少し気にしてはいたんですが……」
普通の大衆食堂と言えばメニューはその日に安く仕入れる事が出来た食材を使った料理1品……例えばベーコンとポテトの盛り合わせ「のみ」というところも多い。
そんな中こんなにもメニューが豊富なのは彼らからの常識からはだいぶ離れるものだ。その分食品ロスも多くてそれが価格に転嫁されているのだろう。
「お待たせいたしました。カレーうどんを2つですね」
「お、来た来た」
出てきたのは茶色いスープの代わりにとろみのついたカレールーの中に浮かぶ、白い麺。
マクラウドは早速カレールーであろうスープを一口飲んだ。
「うん。紛れもなくカレーだな」
マクラウドにとってはカレーは中辛を「数回は食べたことはある」程度だが、カレーうどんは中辛よりは少し甘めな程よい辛さだった。
これなら誰でも食べられるだろうという物で、彼の口にも合う料理だ。
きつねうどんの時とほとんど変わらない相変わらず上質な小麦粉で作られた麺は、スープによく絡んでそのうま味を伝えてくる。
この店特有のメシのうまさはこの料理でも健在だ。
「うーむ……」
マクラウドは順調に食べ進めるのに対し、ヴェロボルグは不満だった……パンチが弱い。
カレーライスの激辛を食い慣れている身としては、このカレーうどんの辛さは物足りない。
「なぁ店主、このカレーうどんとか言ったか? もっと辛くはできないのか?」
「あー……そうですねぇ、味のバランスが崩れちゃうんで申し訳ありませんが出来ませんね」
「ふーむそうか、残念だな」
この辺は料理人達が持つ「料理に対するこだわり」なのだろう。ヴェロボルグは深入りはしないことにした。
カレーライスと違って具はほとんどなく、また大して辛くも無いが紛れもなく美味いカレーの味がする。
わがままを言えば多少物足りない部分もあるが、まぁこれはこれで美味いので食べ進める。
「ごちそうさま。また来るよ」
2人はカレーうどんを平らげ、店を出てきた。暗くなり始めた街中を2人で歩いていた。
「しかしうどんにカレーかぁ……美味かったけど奇抜な発想ですよねぇ」
「ああ。俺にもとてもじゃないが思いつく料理じゃないな」
カレーとうどんを合体させてしまうという斬新すぎるアイディア、それにそれを実現してしまう料理の腕前はどこから来たのだろうか?
正統派であろう異国の料理だけでなく、こんな創作料理までこなしてしまうとは。一見そうには見えないだけで相当な腕の持ち主だろう。
「ひょっとしたら彼女の母国では名の知れた天才料理人だったりするのか?」
「……かもしれませんね」
そういえば彼女に関する話は、おそらく海外から流れてきた料理人であろうということ以外はほとんど聞かない。よくよく考えてみれば謎の多い人物だ。
まぁ飯屋たるもの飯が上手けりゃそれでいい。というそのあとの中隊長のセリフで、マクラウドはあまり深く考えないようにした。
【次回予告】
異世界における彼女の店はそれなりに繁盛していた。だが異世界のお金なんて銀行では換金してくれるわけがない。どうしようか。
第17話「利里を継ぐ者」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます