第13話 カレーライス(激辛)
「!? ヴェロボルグ中隊長殿!?」
マクラウドは自分と同じキツネ型獣人で同じ黄土色の髪をしているため、一見すると兄弟に見えなくもない先輩に当たる中隊長を見回り中目撃する。
彼は公休(要はお休みの日)なのだろうか、普段見かける鎧を着こんだ姿ではなく妙にめかした格好だった。
「お前か。確か……マクラウドとか言ったな」
「名前を憶えていていただけるとは光栄です。ところでそんな格好でいったい何を?」
「なぁに、少し豪勢なメシを食いに来ただけさ。高くつくが美味い店だ。噂じゃお貴族様もお忍びで来るそうだからこの格好さ。じゃあな」
マクラウドと別れた彼が歩く方向にはあの「光食堂」があった。
たどり着いた彼は扉に手をかけ、チリンチリンとドアについた鈴の音を奏でながら入店する。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「いつも通りだ。カレーライスの激辛を出してくれ」
いつものようにいつもと同じメニューを頼んだ。
この店のカレーライスなる料理は見た目はほぼ同じだが辛さの違う3種類が用意されている。
「甘口」辛さ抑え目。初めての方はこれを
「辛口」そこそこの辛さ。甘口では物足りない方向け。
「激辛」非常に辛いのでお気を付け下さい。
この3つだ。甘口や辛口はそこそこ食い付きが良いが、激辛はとても辛くて常連で食ってるのはヴェロボルグぐらいしかいない。そんな料理だ。
光は注文が入るとレトルト食品の温め専用で、お湯はカップ麺に使わない魔法瓶の中に激辛カレーのレトルトパウチを入れる。
数分後、温まったカレーを同時並行でレンジでチンしていたご飯の上に盛り付けて完成だ。
「お待たせしました。カレーライスの激辛になります。かなり辛いので注意してくださいね」
「ああ分かってる。大丈夫だ」
相手はいつもこの料理を頼んでいるとはいえ、店主は一応警告はしておく。
相手もそれを分かっているためか軽く流す。まずカレールーをすくい、口に入れる。
そのとたんに舌に突き刺さるような刺激が口の中に広がる!
「ぬうぅ!」
舌にガツンと殴りかかってくるのは正体こそ分からないがふんだんに使われた香草や薬味といったスパイスによるビリビリした刺激。
並みの者ならその辛さに怖気づくだろうがヴェロボルグにとってはピッタリの辛さで、
これを味わいたいがために光食堂に通い始めた、といっても良い。
今度はルーとライスを一緒にスプーンですくい、口に入れる。
ライスが入ることで先ほどよりはマイルドになった辛みがなんともいい味わいとなる。
その上で辛みの中に秘められたうま味を感じ取ることが出来る。
食うのを進めていくうちにだんだん辛さで体が熱くなり、暦の上では秋になり少しずつ涼しい日がやってきた季節だというのに
夏場のように汗がふきでる。それをぬぐいながらもスプーンを動かす手は止まらない。
途中、ニンジン、ジャガイモ、肉などの具材も口直し代わりに食うがカレーの味がしみ込み、
それでいて素材の味が組み合わさりルーとはまた違ううま味を持つ。それもまた美味い。
食べ始めてから10分もしないうちに完食し、皿に盛ったカレーはなくなってしまった。
彼は、ふぅ……と息を漏らしながらおしぼりなる適度に湿らせた布で口を拭いて満足げな笑みを浮かべる。
「ふぅ。食った食った。店主、勘定はここに置いとくぞ」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
腹が膨れて満足げになりながら彼は店を後にした。
「あー、やっぱりここでしたか」
店を出てきたヴェロボルグをマクラウドが出迎える
「俺も見回りの時は良くここで食ってるんですよ。まぁ今は月末だから来れませんけどね」
「何だ、そうならそうと早く言えばいいじゃないか。まぁいいけどさ」
「さすが中隊長殿。月末だってのにここで食うだけのカネがあるとは」
「まぁな。お前よりは給料もらっているからな。そうだ。今度の給料日は一緒に食わないか? カネは俺が持つから」
「ええ!? 良いんですか!? もちろんお供させてください!」
「ハハッ。こういう時だけは返事は良いな。まぁいいけどな」
店を介して2人の男の友情が始まろうとしていた。
【次回予告】
一応はプロの料理人であるダルケン。家族サービスも兼ねての事だが、彼は自分よりも腕が良いであろう彼女の店から味を盗むために通っていた。
第14話「たぬきそば」
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