第6話 光の一日
光の朝は7時に始まる。
朝食、と言ってもパンをかじる程度だがそれを済ませた後は魔法の靴を履き、
インスタントのカップめんが詰まった段ボールや冷凍食品を入れた保冷剤入りのクーラーボックスを持ち、
靴のかかとを3回鳴らして異世界へと向かう。これを何度か繰り返して全て店に持ち込む。
店に着いてからは開店準備作業として水を汲んできてガスコンロでお湯を沸かし、魔法瓶に入れるほか、
ガス発電機や電子レンジが正常に動くかどうかのチェックも欠かせない。
そして9時になったら光が店舗運営1本で生きていくために欠かせない事を行う。
朝1で銀行へ向かい、窓口で昨日の売り上げの銅貨を銀貨へ、そして金貨へと両替する。
閉店時には銀行は閉まっているためこうして朝に持っていくことにしているのだ。
異世界であるこの世界の硬貨は地球では直接両替する事は出来ない。
だが銅や銀、それに金で出来ていることは変わりない。
そのため古物商の老婆の所へ持っていき、純銀や純金に少し色を付けた値段で日本円に換金してもらうための大事な下準備なのだ。
それが終わり、午前11時になるといよいよ開店、客を待つ。
しばらくしてドアに取りつけてあった鈴がチリンチリンと鳴り、客が入ってきたことを知らせる。
「いらっしゃいませ」
「店主、たぬきそばを貰おうか」
注文が入ると魔法瓶からお湯をだし、注文の品のカップ容器に注いでいく。
待つこと3分。出来た料理をプラスチックの容器とは違うちゃんとした器に盛りつけて客に出す。
「お待たせしました。たぬきそばです」
「お! 来た来た! 今日も美味そうだなぁ!」
無事に客に料理を出せたら光は空の容器などのゴミを片づける。
出たゴミは怪しまれないように厨房の隅っこに溜めていき、営業終了と共に全部持ち帰ることにしている。
何せプラスチックはもちろん、段ボールすらこの世界には無いものだ。目をつけられないように細心の注意を払う必要がある。
以前コーヒーゼリーを好んで食べる常連にプラスチックの容器を譲ってくれないかと頼み込まれた時があったが、
「備品なんで」と言い訳して何とか引き下がらせたこともあった。
そうこうしているうちに再び鈴がチリンチリンと鳴る。と同時にドアが乱暴に開けられる。例の常連のお出ましだ。
「オイ店主! 今日も食いに来てやったぞ! とりあえずソースかつ丼をくれ!」
乱暴な口調で怒鳴るような声で男は注文を飛ばす。最初こそびっくりしたがすぐに慣れた。
今度はクーラーボックスから冷凍のソースカツとパックのご飯をとりだし、電子レンジに入れる。
しばらくして「チーン」という出来上がりを知らせる音を聞いて扉を開き、中の具を茶碗によそったライスの上に乗せていく。
「お待たせしました。ソースかつ丼になります」
「遅えよ! 待ちくたびれたぜ!」
客は待ってましたと言わんばかりにメシにがっつく。
この世界のライスは炊きたてでもぼそぼそとして日本の物とは程遠いものだったため、地球ではパック詰めされて売られていたものを温めただけでも大好評だった。
その後も他の常連に加えて城の兵士たちに商人、おめかしした一般市民まで幅広く相手にして午後8時に、閉店となる。
出たゴミに加えて銅貨でずっしりと重い売り上げを持ってかかとを3回鳴らす。
飛んでいった先は現在の住居である1ルームのアパート。
まずはゴミを分別して、回収日に備える。結構な量が出るが早朝にごみ出しに行けば気づかれないので特に気にしない。
あとは夜まで開いてるスーパーで売り物であるインスタント食品と夕食の買い出しに出かけてようやく1日が終わる。
光自身、自分は一切調理らしい調理をせずに料理店を切り盛りするのは多分間違っていることだとは強く思っている。
だが、とりあえず今はなりたくてなりたくて仕方なかった料理人という立場に形だけでもいられることを亡き伯母に感謝するのだった。
【次回予告】
兵士たちに人気があるという料理屋を彼女は訪れていた。異国の料理なのか説明書きを見てもピンとこない彼女がとった行動とは?
第7話「ソース焼きそば」
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