執行決定

@fuyu_2

第1話

目を覚ますと、もう朝だった。ブラインド越しの朝陽は、まだそれほど眩しくない。天井の大きなシーリングファンが空気をかき混ぜながら回っている。寝返って枕元の時計を見ると五時過ぎだった。都会の騒音にまだ混濁されてない澄みきった空気が、上半分だけ開けた窓から、ゆっくりと室内へ流れ込んでくる。なにもなかったかのような世界の静寂と夜明けの薄明りの中で、ゆっくりとベッドから起き上がって素足のまま浴室へ向かった。下着を脱いで洗濯機の中に放り込む。脱衣所の鏡に映る自分の顔は、まだうっすらと傷跡が残っている。もう消えないだろうと彼は思った。

浴室へ入り硝子扉を閉めて蛇口をひねると勢いよく水が出た。少しだけ口に含んで飲んだ。だが冷たさは感じない。まだ夏が猛威をふるっている。この年の夏は特に暑かったと、記録にもあるだろうか。

さっと汗を流して、傷跡を避けるようにして髭を剃った。バスタオルで身体を拭くと、気分がさっぱりした。髪の毛を乾かしながらベッド横の椅子に腰かけてテレビをつけた。

朝のニュース番組にはまだ早い時間帯だと思ったが、ピンクのストライプのネクタイをした若い解説者は熱くしゃべり続けていた。


「……奇跡としか言いようがありません。まったく驚くべきことです。これが、我がアメリカの真のパワーなのでしょうか。一週間前の惨劇は酷いものでした。絶望と悲しみは世界中を包み込もうとしていました。しかし、今からほんの二時間ほど前に集中治療室から出てきたベッドに彼は横たわっていました。誰が置いたのか足元には星条旗の旗がありました。そして少しだけ薄眼を開けて、私には笑っているように見えました。いいえ、大統領は全国民へ向けて、心配しなくてもいい、私は無事だ、と言っているように見えました」

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