試合終了後 その2(真最終話 茶番を、君に)

 

 木林がモニターを見終わった直後、廊下にハイヒールの靴音が響き渡る。

 あさぎが「面会」という名目で笑いに来たのだ。


「起きてるのでしょう? 木林藤二」


 寝台で横になり、向こうをむいている作者へそう告げる。

 木林は面倒くさそうに体を起こし、こちらへと顔を向けた。


「私は木林ではない! アンパン〇ンマンだ!」


「ちょ……」


 そこにはパイ生地でできた顔に、首から下は着ぐるみという、世にも奇妙な生き物がいた。

 食べられる物以外ばかり送られてくる木林に、看守が同情してバザールで安かったアップルパイを買ってきて与えたのだ。


「食べ物を無駄にすると罰が当たるわ」

「私がそんな真似をすると思うか?」


 御飯を粗末にすると目がつぶれ、パンは逆さまに置くだけで悪いことが起こるらしい。

 おぞましいことにアンパン〇ンマンは、自分の顔をちぎっては口に入れ始めた。


「今度同じことを姪っ子の前でしてみては?」

「駄目だ。口を聞いてくれなくなるだろう」


 パイ生地を食べ終え現れた顔は、さしづめバイ菌だと思ったあさぎだったが、これ以上話が進まないとらちがあかないので言うのを止めた。


「試合、送ったモニターで見たでしょう?」


「見た!ダー坊が動体操作でブラックを封じ、七剣フィリアスを突き立てる姿を!」


「……」

「……」


 やれやれといったあさぎに、木林は再びふて寝モードに移行する。


「……あーあ。誰かさんが余計なことしなければなー」

「私が介入しなければ、貴方は間違いなくセリスって子に消されてたわね」

「ここから遠隔操作もできたんだよなー」

「無駄よ、もう全試合終わってるし。貴方に見せたそれは録画」


「……」


 ごろんと仰向けになり、天井を見ながらつぶやく。


「やはり荒削りのA.I.じゃダメか……と言ってもプログラミングできないし…」

「ふふ、他には?」

「言わないよ。これ以上言い訳しても君が喜ぶだけだからな」

「あら残念」


 本当に残念そうな顔をするあさぎ。こいつはこういう女だ。


八紘一宇はっこういちう、夢と消える……か」


「そうそう、こんなもの見つけたの。読み上げてもいい?」

「!? おいやめろ!」


 あさぎの取り出した紙。それは「もしダー坊が優勝したら」というものだった。

 

 内容はこの上なく酷いものだった。金の力でアニメの会社を乗っ取り、世界有数のアニメーターをかき集め、幻のアニメ「戦棲艦せんせいかん009」を復活させるというものだ。

 単に復活させるだけでなく、コラボとして全20000タイトルを越えるアニメや漫画、実写映画などのキャラクターを登場させ、劇場版までやるというのだから堪らない。


「うわぁ、こんなくだらないことに願いを使うつもりだったのね」

「くだらなくは無いだろう! 私は本気だった!」

「優勝しなくてよかったわ。間違いなくアカウント消されてたわよ」

「アカウント削除の境地が見てみたかったんだ……」

「……馬鹿」


 放り投げられた紙は一瞬にして燃え、消えた。


「コソコソと裏方に徹し、最後は檻の中。そんなことでイベントは楽しめたの?」

「そう言う君はどうだ?」

「そうね……異世界にも底知れない力を持つ存在がいる、それを確認できただけでも十分楽しめたわ。貴方の無様な道化振りもそれなりに、ね」


 すると木林は立ち上がり、手を広げて叫ぶ。


「実に楽しかったさ!最高だ! 想像以上に楽しめたよ!」


 檻の中心で喜びを叫ぶ変人。遠くから看守の「うるせー!」という声が聞こえた。

 

「……で、あさぎ。折り入って頼みがある」

「嫌よ」


「向こうに戻ったら、御前岩ごぜんいわほこらにどら焼きとスカイベリー大福を供えて欲しい。一時でもあいつ……ダー坊は俺の相方だったんだ。俺の代わりに、頼む」

「……あぁそんなこと。それだけ?」


「そうだな……セリスって娘にこれを渡してくれ」


 木林がモニターを操作すると、檻の外にピンクの着ぐるみが現れる。それは次の試合で自分の着る予定だったウサギの着ぐるみだった。


「レ〇ン牛乳も付けておいてくれ。仮にも神様と私の選んだ相手を打ち破ったんだ、二人にはその御褒美さ。……あと迷惑料も兼ねて、かな」

「それだけ?」

「あぁ、それだけだ」

「……」


 あさぎの意に反し、木林はまた寝台へと横になった。

 てっきり「ここから出してくれー!」と泣き叫ぶのかと思いきやこれである。

 

「私はもう暫くここで一人を満喫するよ。観戦ならここでもできるからな。勿論引き続いて試合を中継してくれるんだろう?」

「いいわよ。観戦に夢中で、逃げるのを忘れないといいわね」

「ああ」


 呆れたものだ、もう何も言うまい。そして会う事も無いだろう。

 黙ってきびすを返すと牢獄を後にしようとする。


「あさぎ」

「何よ?」

「モニター、ありがとう」

「……」


 長い廊下にあさぎの靴音と、男の哀愁漂う鼻歌が響くのだった。



 ここまで見て頂き、本当にありがとうございました!

 木林の次回作には期待しない方がよいでしょう。


 そして、最強トーナメントは続く……。

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