試合中の舞台裏(独房)で


「出場選手に遠隔装置を埋め込み、操作していたと聞いたが」

「うぉぇうえぇぇうー (^p^)」

「こちらの記録を勝手に改ざんし、不正に部屋を利用していたようだが?」

「へー、やぁねぇ」

「監視録画装置がこちらに無いとでも? 選手控え区域へ勝手に入った理由は!?」

「カツ丼を所望する」


「いい加減にしろっ!!」


 ダンッと力強く叩かれる机。酒が残っていたのかおちゃらけていた木林も、流石に恫喝どうかつされてビクッとなった。着ぐるみを着たままなので、格好の悪さは元よりお察しレベルなのだが。

 やれやれ、と口ひげを生やした警備隊の隊長は、机に肘をつく。


「そうやってふざけているのも今のうちだぞ? 我々は君らの世界でいう『警察』では無いのだからな。もし裁判となれば上辺ばかりの公平な判決や、被告人の権利などという甘ったれたものは無いと思え」


「どこまで地球うちのことを知っているのかは知らんがねぇ!」


 どうしたことだろう、突如しらばっくれていた木林が真面目な口調となる。


「確かに地球こっちじゃ私も気に食わないことが掃いて捨てるほどある。だが余所者に故郷を口悪く言われ、黙っていられるほど私もお人好しじゃない。口を慎んで貰おう」


「……ぶっ!」


 せめて物語に出てくるような主人公が言えば、それなりにカッコイイ台詞だった。

 しかし目の前にズイッと押し出されたのは着ぐるみの顔。そのギャップに警備隊長は思わず吹き出してしまい、何もかもが台無しとなってしまった。


「はいはいわかった」という対応をされ、変人は独房へと連行された。



「うわぁ、想像通り殺風景だなこりゃ」


 絵に描いたような独房、トイレと寝台以外何も無い。

 と、思っていたら段ボール箱が投げ込まれた。


「差し入れだぞ、新入り早々よかったじゃないか」


 皮肉を言う看守に構わず、段ボールをあける木林。中を見ると見覚えのある小袋がいくつも出て来た。しかしよく見ると一つ一つがホコリを被っており、賞味期限を確認すると地球時間で5年前のものではないか。


「即席ラーメン、腐ってやがる…! 古すぎたんだ!」


 鋼鉄歯車に出てくる蛇のような言葉を吐き、箱の隅の方は虫が食っていたことに絶句する。……そもそもこの環境でどうしろと? 生でかじれとでもいうのか?


 そして袋の隙間から落ちる一通の手紙。


──ヌンテンドーのお礼です。


「いらぬ! しかも私は瀬賀派だ!」

「煩いぞ新入り!」


 丁度何かを運んできた看守に怒鳴られた。


「君にこれをやろう。異世界の食べ物だぞ」

「成程これは見たことが無い。だが食べられないことくらいは俺にもわかる」


 そしてまたもや独房に運び込まれる箱。


「また差し入れだ、今度は食べ物だといいな」


 皮肉とも同情ともとれる言葉を残し、看守は再びどこかへ行ってしまった。


(今度は爆弾じゃないだろうな)


 先程より一回り小さい段ボール。恐る恐る開けて見れば、やはりそれは食べ物ではない。緩衝材かんしょうざいに包まれたそれは小型のモニターとイヤホンだった。


 試しにスイッチを付けると、第2試合が映し出されたではないか!


(おぉ!? ダー坊がブラックと戦っているっ!)


 状況が分れば操作ができる。そう思いつつポケットに手を忍ばせるも、灰色の石は見当たらなかった。恐らく捕縛された時に落としてしまったのだろう。今頃あさぎに拾われている筈だ。


(……あぁそうか、これを送ってきたのもあいつだな)


 憶えある香のするモニターにそう確信する木林。

 とりあえず今は試合の展開を見守るのだった。

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