3日目 第2試合 前編


(──ダー坊、モード666! そして私はモード481だ!)


(あの着ぐるみ、今日は猿?か)


 ブラックが観客席を見ると確かに着ぐるみはいた。ダイタラボッチに何らかの指示を出したのだろう。しかしモード666とは? モード481とは……?



 第二試合開始直前、闘技場に立っていたのはブラックただ一人。

 相手ゲートからは誰も現れず、何事かと観客からどよめきが起こる。


「下らん。余興のつもりか」


 広いドーム中、ブラックは見えない相手の気配を察知していた。



 そして、は突如として天井から降って来たのだ!


 凄まじい地響き、土煙をあげながら現れたのはダイタラボッチの巨体!

 ブラックは身を屈め、さも迷惑そうにマントをひるがえすと巨人に臨戦態勢を取るべく七剣を構える。


グオォォォォォォォ─────ッ!!


 けたたましい咆哮ほうこう、これに焦った運営側も慌しくゴングを鳴らした!


(──速いっ!!)


 ゴングと同時に巨人の鉄槌が振り下ろされたのだが、あまりの速さとトリッキー

な軌道に思わず目を見張った。いかな怪物とてこんな攻撃を繰り出すことなど不可能だ!


バチンッ!!


 様子を見る為にもバリアーを張るが、何度もくらえば貫かれそうだ。

 恐らく「モード666」とは巨人の性能を極限まで上げた状態指示なのだろう。


(初めから本気という訳か。いいだろう)


 三杖ドルドロスに持ち替え、巨人の行動を止めるべく掲げた!


 ……するとどうだろう、巨人の姿は見えなくなった。いや、正確には二つの巨大な奇岩へと姿を変えたのだ。


(これがあの巨人の正体なのか?)


 まごう事無きただの岩、全く動かない。

 そしてドームにはアナウンスが響き渡る。


『選手の生存確認の為、一時試合を中断します』


 慌しく駆けつけて、ブラックに離れるよう告げるスタッフ。異例の事態となった。もしダイタラボッチが死んでいるなら、この岩も消える筈だがそれがない。まぁ戦闘継続不可能となれば自動的にブラックの勝ちとなるのだが。



──メンテナンス完了 再起動


「っ! どけっ! まだ終わってはいない!」


 奇岩が急激に変化し、再びダイタラボッチの姿を現したではないか!

 スタッフが撤退しきらないままに動き出す巨人。一体木林はダイタラボッチに何をしたのか? ブラックの頭に声が飛び込んで来た。


(──お猿さんだよー^^ パオーン♪)


「!?」


『お客様、周りのお客様の迷惑となりますので…』

『お猿さんが酒飲んじゃいけねぇってのか!? キリンさんの方が好きなのかっ!? てやんでぇ! おいらと大〇火で勝負でぃ! おっおっおっ!?』


 客席を見ると「日〇猿軍団」と書かれた猿の着ぐるみが、酒を飲みながらスタッフから注意を受けている所だった。相当飲んだのか足元には空き缶が転がっている。

「モード481よっぱらい」とはブラックに考えを読まれないよう、酒を飲みまくる作戦の事だったのだ!



 では一体、今ダイタラボッチを制御しているのは誰なのか……?



 一方、客席では……。



「私の言ったことがわからなかったの? お猿さん」

「ウキッ? お嬢ちゃんも飲みたいのかニャン?」


 セリスが立っていた。にこやかだが目が笑っていない。


「昨日あれほど忠告してあげたじゃない。あの巨人に何かしてたでしょ?」

「……知らんなぁ。そもそも昨日会ったのが私だという証拠はあるのかね?」

「うん、わかった。それが返答ね」


 セリスの目の色が殺意へと変わった、その時!


「たぁすけて────っ!! 人殺しだ──っ!!!」


 情けない声を上げ立ち上がる木林!

 すぐさま運営側の警備員らが二人を取り囲んだ!


「この人私を殺そうとしてるんです! 助けてくだちゃい!」


 この猿の着ぐるみには本当に大人が入っているのか? 怒りを通り越し呆れているセリスを尻目に、木林は警備員の一人にすがりつく。


「しかも旦那! この女、今戦ってる『ブラック』とかいう奴の仲間ですぜ!!」

「……あんた、相当死にたいようね」


 このままこの場にいる人間ごと八つ裂きにしてやりたいセリス。だが下手な真似をすれば、今戦っている可愛いクロツグが失格になってしまうかもしれない。

 自分のせいで誇らしい弟に土が付く、それだけは避けたかった。


 ところが、である。


「我々の用があるのはお前なのだが。木林藤二」

「は?」

「VIPルームの不正使用、進入禁止区域への立ち入り、そもそも大会のチケットは購入した物なのか? 聞きたいことは山ほどある、一緒に来て貰おう!」

「はぁぁ!?」


 あくまで白を切る木林、そこに第三者現る!


「どうやら間に合ったみたいね。もう観念しなさい」


 あさぎである、警備員を連れて来たのも彼女だったのだ。


「 通告したのはお前か! 汚いぞブルータス!!」


「よくわからないけど旗色が悪いみたいね、お猿さん」

「ぐ……」


 警備員たちとセリスに挟まれ、逃げ場を失う木林。しかし着ぐるみのポケットから煙幕玉を取り出し床へ投げつけた!


「ふははははっ!! 掴まって堪るか、また会おう明智くん! …………あれ?」 


 広がった煙は即座にあさぎの手の上へ収束してしまう。呆気にとられていた木林は逃げ時を失い、セリスによって捕縛されてしまった。酷い縛り方をされた挙句に床へと叩きつけられ、思い切り足で踏まれる。


「ふごっ!」

「牢屋の中で残飯でも食べてらっしゃい」

「ドラゴンの餌にされるって可能性もあるわね」


 木林の上で「イエーイ」とハイタッチするセリスとあさぎ。

 間もなく変人は喚きながら担がれていってしまった。



「巨人の制御石は二つとも破壊したわ。これであの子は存分に戦えるはずよ」

「本当に? でも貴女、あいつの仲間だったんじゃ……」

「まさか、面白そうだから見に来ただけ。個人的に貴女達の事、応援してるわね」

「あ、ありがとう……ございます」


 礼を言って愛想笑いを浮かべ、きびすを返すセリス。

 その表情に笑みは無かった。

 

 あさぎを危険な相手と察しただけでなく、その雰囲気から普段自分と馬の合わないエルティナを連想してしまったからだ。

 もう会うことも無いだろう、会わない方がいい。


 熱狂渦巻く歓声の中、再びセリスは闘技場へと目をやる。


(クロツグ、お姉ちゃんにできるのはここまでよ。必ず勝ちなさい)



 一方的に攻撃を受けてはかわしているブラック。常に観客席へと攻撃が及ぶ位置にいるので反撃のチャンスが巡ってこないのだ。

 頭部に埋め込まれていた弱点の黒石、今は巨人の体内を高速で動き回っている。


(ここまで厄介な奴だったとは。高く付くぞ、酔っぱらい猿め)


 局所的な属性魔法でけん制するが一向に効く様子が無い。ただ炎属性の魔法に少し嫌がる気配を見逃さなかった。後はどうやって誘い出すかだが…。



(さぁ見せて頂戴ブラック。本気の黒い鏡の破片、それを生身で砕けるほどの力を)


 観客側で立ち見をしているあさぎは知っていた。

「コード666」が黒い鏡の破片の完全自立戦闘モードであることを。

そして、もはや破片の完全破壊以外に巨人を倒すすべが無い事を……。


3日目 第2試合 前編 完   →後編へ続くぞ! 

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