試合終了後 その1
試合終了後、気を良くしてその後も一通り観戦した木林はVIPルームへと戻る。暗い部屋の中、旧式レコーダーの前で酒を飲み、ラジオのDJごっごを始めた。
「DJ藤二の、ミッドナイトラジオー! ワーパチパチパチッ!(何故か甲高い声) さて! 先週募集した私の相方『ダイタラボッチ』の愛称を公募したところ、全世界のみならず異世界からもハガキが届きましたー! ひゃっほーい! ドンドンドン!」
何も書かれていない紙を持つ。
「審査の結果、最終選考まで残ったのはチキュウにお住まいの『館 伊呂波さん』の『ボーちゃん』と、異世界にお住いの『カノヴァさん』の『ダーダー』です! 二人には今非常に入手困難なあの『ヌンテンドースイッチ』をプレゼントだー!!」
ドン、と置かれる「ヌンテンドー」とマジックで書かれた只のスイッチ。
「……はぁ、つまんね。何やっとるんだ私は」
ようやく自覚した変人は、箱を抱え部屋を後にした。
木林は人間くらいの大きさとなったダイタラボッチときなこ棒を食べていた。
交互に食べ、当たりを引いたら続けて食べられる、というルールだ。
「ち、ハズレか。お前の番だぞ、ダー坊」
勿論防護服を着て顔はマスク着用である。巨大化して酸でも吐かない限り、臭気はそれほど酷く無い。
ダー坊は箱の底にあるものばかり選んで次々と当てていく。
きなこ棒は底にあるものの方が当たりやすいのだ。
(……こいつ学習しやがった!)
12本食べたところで交代になる、もう当りは残り少ないだろう。
木林はきなこ棒を口に含み、先の赤い爪楊枝を見せた。
「よし当りだ!」
ガシッ!
もう一本と手を伸ばしたところでダー坊に手を掴まれ、首を横に振られる。
せこいことに木林は爪楊枝を自分の歯茎に刺し、血を付けて当りを偽造したのだ!
「ちっばれたか」
『随分と楽しそうね』
「ギャーッ!!」
耳元からの声に驚き飛び退いて見ると、背後にあさぎが屈んで見ていた。
「お、おどかすなっ! 寿命が50年縮んだっ!」
「あら本当? 次に脅かしたら確実に死ぬわね」
無表情で淡々と答えるあさぎはドレス姿ではない、今日は髪を結い着物姿である。
「……まだ怒っているのか? ブルータス」
「勿論。それとその呼び名、止めて頂けませんこと? 私はブルータスではないし、貴方はカエサルではない……あえて言うならただのサルね」
「キキ―ッ!!」
突然猿マネを始める木林。つられてダー坊もそれを真似する。
ダー坊と猿まねをしながら、木林は妄想の世界へと誘われた。
…そうか、ブルータスはカエサルの部下だったのか。つかカエサルって誰だっけ? 隣県で戦車に乗ってた高校生かしら? あぁそうだ、次の着ぐるみは猿にしよう。
……あれ? そういえば何故私は着ぐるみなど着ていたのだ?
……どなたか教えてくだせぇ……。
「中々お似合いよ貴方達。まるで兄弟みたいね」
「ふん、こうしてコミュニケーションをとることも大切だ。一方的に操っているだけでは、こいつもストレスを感じてしまうからな」
「あら、意外と考えてるじゃない」
「当り前だ。私はお前の生みの親だぞ」
「ふぅん……。そうそう、今日は貴方に見せたい物があって来たのよ」
巾着から中身を取り出して見せた。
それは灰色の石……木林の持っていた、ダー坊を操る灰色の石と同じ物だった!
「な!? ……ふ、ふん! 偽物だ!」
「はい、右手を上げてー」
言われるまま、ダー坊は右腕を上げたではないか!
驚きあさぎから石を奪い取ろうとする木林!
スカッ
※説明しよう! あさぎが木林に触れることができないように、作者である木林もまたあさぎに触れることが出来ないのだ! 木林がダー坊に触れることができるのは、二人が同じ作品の登場人物として認識されているからである!
「ちょっと! 変な所触ろうとしないで下さる!? 私を同次元の存在として認識させればよろしいのではなくて!?」
言われてPCに触れようとする木林。
それを見計らい、あさぎは鋭い爪を伸ばす。
「……待て、それはなんだ? 私を殺すつもりではあるまいね?」
「そんなことしませんわ。ちょっと手を落として差し上げるだけよ」
「きょ、今日はPCの調子が悪い! 残念だったな!」
「はーい、今度は左手を上げてー」
「や、やめろ! ……頼む! 試合中だけは! ワシの楽しみを奪わんでくれぇ!」
「どこの御老公よ」
やがて木林は諦め、どっかり腰を下ろすと溜息が出た。
迂闊だった。恐らくあさぎは黒い鏡の破片の解析が終わったのだろう。先日見せた灰色の石が、彼女にヒントを与えてしまったようだ。
「……解析結果、レポートに纏めておけよ」
「何言ってるんだか。纏めても見せないわよ、貴方にだけは、ね」
持ってきた発泡酒を開け、ダー坊にも渡す。
「そんなにがっかりしなくても、試合に水差す真似はしませんわ」
「……わかってるよ。お前も飲むか? 安酒もたまにはいいぞ」
「そんなものお酒では無いわ、アルコールの入った薬品よ! それより今度は相手の偵察をしなくてよろしいのかしら?」
ジャックに盗聴器を仕掛けようとしたことだ、やはりバレていた。
木林は答える代わりに大会のパンフレットを手渡す。
「見たまえ。どの出場者も強豪、素晴らしいキャラクター達だ。昨日は初戦という事もあり羽目を外してしまったが、よく考えればその必要は無かったんだ。だってそうだろう? 誰と当たっても強敵なんだから」
「あら? 諦め?」
「そうじゃない、小細工が無意味だと気付いただけだ。そしてどんな相手でも全力で勝つ。なぁダー坊」
強烈なゲップで返答するダイタラボッチ。
「……どうでもいいけど、まだ私が怒っていることをお忘れなく」
「そろそろ機嫌、直そうか」
「女の執念は怖いのよ? …… 一ついいこと教えてあげる。次の対戦相手、会場中の人の考えが聞こえるみたいよ。貴方にとっては致命的かもね」
「……」
「次の試合が楽しみですわ。是非観戦させて頂くわね」
そう言って、あさぎは姿を消した。
「……おーい! 次の対戦相手くーん!! ダー坊に勝てたらあさぎのスリーサイズを教えてあげよう!!そのかわり負けたらだなぁ!!」
「負けたら、何?」
「…………。ごめーん!! やっぱり嘘だわ──!!」
木林の寿命が50年縮んだのだった。
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