第9話 顛末

 虎王サウジャ=カーンの三十五年、新王即位す。

 これが第七十五代国王シレ=カーンである。

 そして即位に際し、バファラム翁の恐れていた「万に一つ」の事態が起こってしまった。

「カーザル王子御謀反」

 即位後二日目の朝、カーザル王子は王居へと攻め入った。が、バファラム翁の命により、常に備えを万全にしていた新王軍はこれを撃退。乱は三日で治まったものの、双方甚大な被害を被り、歴史上、最短にして最悪の乱となった。

 反乱軍は悉く討ち取られたが、中でも総大将ゴラウ公の最後は、壮絶なものであった。

 新王軍五千に対し、五騎の精鋭を従えて、敵中突破をしかける将軍。雑兵をバッサバッサとなぎ倒し、およそ半数の兵を蹴散らしていた。が、やはり多勢にはかなわず、よもやこれまでと、聖河の濁流に身を投げたのである。

 その時の言葉、

「汝らこれを知るべし。月の輝けるは、日の没するが故にこそ!」

 は、あまりにも有名である。月をシレ王に、太陽をカーザル王子に喩えたもので、現王を貶める言葉故、誰も表立って口にする者はいない。

 こうして反乱軍は鎮圧され、カーザル王子は、北方の辺境地へと国外追放の身となった。

 追放される前日、最後にバファラム翁が王子と出会った際、王子は激昂して言い寄った。

「何時ぞや、私は器として十分だとおっしゃったはず。然るにアシュバルを選びしは何故ぞ! 夫子は国を滅ぼすおつもりか!」

 対してバファラム翁は、静かに、そして悲しい目で答えた。

「あなたは十分だった。ただそれだけのことです」

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