第7話 託宣
数日後、玉座におわせるサウジャ王の前に、バファラム翁の姿があった。
参上してから暫くの時が過ぎている。
サウジャ王はゆっくりと、臥していた頭を上げ、口を開いた。
「バファラム翁、今日こそご返答をいただきたい。余は、これを学聖ガナハティ神のお告げと受け賜る」
バファラム翁は目を細めた。
「陛下、それは……」
バファラム翁は悟った。すなわち、王は〝腹を括った〟のだ、と。
サウジャ王の意図するところはこうである。
神代の昔、まだ大地が混沌としていた頃、地上に君臨していたのは、蛇王ヴァートラ=ラージャ(「ラージャ」は蛇族の言葉で「王」を意味する)であった。
大地を荒らし、暴虐の限りを尽くすこの蛇王に憂えた神々は、これを討つべく、一頭の虎と一頭の象を遣わした。
象の智慧と虎の勇猛を以って、見事蛇王は退治され、その褒美として、神々より大地を治めることを許された。
この虎こそが建国の祖、すなわち初代国王インドラ=カーンである。そして、インドラ王に智慧を授けた象こそが、学聖ガナハティ神である。彼は初代の大宰相として王を助け、国のために尽力したという。すなわち建国の時代より、王家は虎の、宰相家は象の一族が担うものとされているのである。
今日、インドラ=カーンは武と統治の神として、また、大宰相ガナハティは学問と創造の神として知られているが、そのガナハティ神の後胤こそが、バファラム翁の一族なのである。
如何に現世の王であろうと、建国の神の託宣を無視することなどできない。
即ち、どのような答えが返ってこようと、それを受け入れる覚悟があるということである。
その覚悟を決めたサウジャ王に敬意を払うとともに、自らも誠心を以って応えなければならぬ。
バファラム翁も意を決し、
「では……」
後の王になる者の名を言った。
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