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 ぐちゃぐちゃでいてまっすぐなライン。ガラクタで溢れている透明な世界。

 わたしの見ている世界はこの社会において非常につまらないものなのです。

 見渡して見えるものはわたしにとって取るに足らない事象ばかりなのです。

 街の水面には華は咲きません。人の波が気色悪いリズムを奏でます。

 浮かぶ雲は全てを遮る。遥か青空には何が見えているのでしょうか。

 死んだ魚が今日もこの街に蠢いています。わたしはこの海を泳げない。

 わたしが生きているからでしょうか。

 人として生きる意味のないわたしがどうしてあの人たちを死んでいるなんて言えるのでしょうか。わたしは罪深い存在です。救いなんてなくて当然なのです。

 多分嫉妬なんだと思います。

 彼らはわたしの知らないことを知っているから、わたしはそれが羨ましくて堪らない。

 悔しくて悔しくて、苦しくて苦しくて、どうしてわたしがあの海で泳げないのかわからなくて、わたしはまた彼らを憎む。

 どうしてこんなことを考えなくてはいけないのでしょう。

 わたしがこの檻から出られないのは必然なのです。こんなわたしだから。

 

 生まれた意味など死ぬまでわからない。わたしは消えるとき、この身が本当にゴミ同然の肉塊となるとき、それを知るのだと信じています。そうではないと最期まで救われないではないですか。

 もしその意味が今現在のわたしの明日のように透明であったり、死んでも誰もそれを教えてくれないのであれば、やはりそれもすべてわたしのせいなのでしょうね。

 

 温かい世界は知っています。今でもすぐそばにあって触れられる気がしています。

 けれど顔すら思い出せない。誰も傷つけない熱がわたしの躰を触れたことは知っています。

 けれどそれが誰の熱で、誰のどんな部分で私を温めたのかわたしにはわかりません。ごめんなさい。

 あの日々の、あの温かい熱がわたしのささやかな血管を通っているのをわたしは感じています。こんなわたしでも感じているのです。

 わたしがこうして今呼吸しているのはその血のおかげなのだと感じているのです。

 しかし、わたしの背負っている闇はその温かな血をひどく冷たくします。

 お前は冷たくなるべきなのだと、その躰を裂くべきだと、闇は責めます。

 そしてわたしはそれを受け入れてしまうのです。わたしはこのわたし自身の崩壊を望んでしまうのです。

 なんて哀しいのでしょう。わたしの中に残されたわたしへの救いのカケラを壊そうとしているのです。

 わたしの闇はわたしを超えてしまう。ちっぽけなわたしは憂鬱な暗闇から逃れられない。

 彼らの血が引き金を引いたのです。あの人たちが悪いのではありません。あくまでわたしの思いつく判断材料にすぎないのです。あの人たちのせいじゃない。

 

 ごめんなさい。わたしの弱さがいけないのです。弱いのに強いふりなんてするから。




 学校から届いた進路希望のプリントを丁寧に折っていた。

 長方形の紙で紙飛行機を折るとどうしても不恰好になってしまう。

 薄くて安い材質なのも相まって、満足に折れない。

 出来上がった紙飛行機は翼が見るからに左右非対称で、先っぽの鼻の部分が軽く曲がっていた。

「いいかな。別に」

 飛ぶか飛ばないかはどうでもいい。とにかく何かわたしは悪いことがしたい。

 誰かの迷惑になるくらいの悪いことがしたい。そしたら誰かがわたしを見てくれる。他でもないわたしを見てくれる。

 わたしの中ではちきれそうな寂しさが歪な紙飛行機を作り上げた。

 誰のせいでもない、わたしが抱えるべきものを誰かに知ってほしい。

 知ってもらえるのかわからないし、知ってもらってもどうにもならないなんてこともわかっている。

 この飛行機にわたしを乗せるんだ。

 わたしはこの翼を羽ばたかせたい。たとえ飛ばなくとも。

 窓を開くと夕刻の空がわたしの眼孔へ飛び込む。

 鉛色の重い雲。汚い毎日を溜め込みすぎて今にも落下しそうな鉛色の雲。

 その雲の奥に熱く燃える夕日が叫んでいる。その号哭をも雲は吸い込んでしまう。

「ほら、貫け」

 わたしは華奢で不格好なジェット機を勢い良く放った。

 白い翼はグレーをバックに綺麗に飛んだ。よくわからない風に乗って、よく知らない方向へ何の疑いもなく滑らかに飛んだ。

 わたしのこの狭い視界の中で紙飛行機は止まっていた。

 はっきりとしない灰色の世界を止まっていた。

 高みを目指すわけでもなく、諦めて終わりの壁を探すわけでもなく、ただそのままでいた。

「嗚呼」

 わたしだわ。わたしじゃないの。

 

 やがて白い不格好なわたしは高層マンションに隠れてしまった。

 わたしは足元のスクールバッグからファイルを取り出し、中に挟んであるテストの答案用紙や定期連絡の便りを床にぶちまけた。

 狂うように紙を折った。戦闘機に見える紙屑を空からぶん投げた。

 暴れ狂う特攻隊は向かうべき敵へ下降していく。

 周囲を巡回するドローンにわたしの世界がぶつかる。

 地上の魚たちへ爆撃が開始される。

 わたしは玄関の郵便受けへ走った。

 しつこい宗教勧誘のチラシや、いらないセールスペーパーを折りまくった。

 

 楽しかった。気持ち良かった。どんな紙屑でもわたしに見えた。

 わたしはこの憂鬱な鉛色の空を泳いだ。

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メランコリック・イン・ザ・シティ おイモ @hot_oimo

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