闇からの招待
翌晩、仕事を終えたゼペットは寝室でワインを
なぁに動かないからこそ愛おしいのさ。
そう自分に言い聞かせて人形の頭を
こんな夜更けに誰だ?
諦めてくれることを期待してしばらく放っておいたが、ノックは
「注文は受け付けてないんだ!」
ドアの向こうから返事が返ってきた。
「ゼペット様。ジアッキーノ様よりの使いです。扉をお開けください」
便意を我慢しているような切羽詰った声だった。
病院の関係者だろうか?
ゼペットが不承不承ドアを開けると、大きなトランクを間に挟んで、制服の男が二人並んで立っていた。
「失礼致します」
男たちが二人がかりでトランクを運び込んできたので、ゼペットは急いで脇にどいた。二人は工房の作業台の上にトランクをどすんと乗せると、玄関で
「医師ジアッキーノ様よりご伝言を
ジアッキーノ……はて、どの先生だったか。ゼペットが考えていると、使者の一人がポケットから紙を取り出して読み上げ始めた。
『前略。ゼペット様。貴殿のご高名、
そこでもう一人の使者がバッとトランクの
『詳しくは
使者は「以上です」と言ってまた敬礼し、直立不動の姿勢をとった。
「終わりかね?」
「はいっ」
自分への依頼といえば補助具の制作だろうが、なぜこんな夜更けに呼びつけるのか。それに一面識もない相手に金貨を千枚とは、いくらなんでも高額過ぎる。いったいジアッキーノとは何者なのだ?
拒否したらどうするのだろう。暴力に訴えるだろうか。ゼペットはむしろ好奇心から聞いた。
「お断りするには?」
「金貨はそのままお納め頂き、直接ご無礼をお詫びする為、ご同行をお願いする様に申しつかっております」
どっちみち連れて行くという筋書きか。ゼペットは苦笑した。
「では参りましょう」
†
外に出ると工房の前には豪華絢爛な六頭立ての馬車が停まっており、ドアの前には執事らしき男が体を二つ折りにして立っていた。
「夜分遅くに誠に申し訳ございません」
執事は体を折ったまま馬車のドアを引き開けた。ゼペットは二人の使者に挟まれるようにして馬車に乗り込んだ。乗るとすぐに使者は両側の窓のカーテンを閉めた。最後に執事が乗りこむと、馬車は音もなく走りだした。
普段使っているのが馬車なら、この乗り物はまるで動く書斎だ。景色は見えず、同乗者は押し黙っているが、その分を差し引いても快適だった。十五分ほどたっただろうか。ゼペットはどこに向かっているのか聞いた。どうせ返事はないだろう。ところが意外なことに前の席に座る執事が口を開いた。
「誠に申し訳ございませんが、私共には詳しいことは申し上げられません。今しばらくご辛抱頂ますよう」と耳触りの良い声で
(まぁそうだろう。前金で金貨を千枚。王侯貴族のような馬車。いずれただの医者ではあるまい。いったい私に何を作らせようというのだろう? 何か後ろ暗いことでなければいいが……)
静かに走る馬車に身を
――死人をつないで生き返らせる――
ジアッキーノ……医師……なぜ気が付かなかった!
心臓が
「到着いたしました」
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