操り死人

 恐ろしい怪人を見てから三日の間、ゼペットは熱を出して寝込んでしまった。ベッドの中で、墓から抜け出した死体に追われる夢にうなされ続けた。天罰が下ったのだ。人形に命を与えようなど、人間の分際で許されることではなかった。人に話せば気が晴れるかもしれない。だがゼペットには、そもそも話す相手がいなかった。例えいたとして夜中に墓場にいた理由を聞かれたら……何と答える?


 結局、次の納品時にそれとなく話を振って様子をうかがうにとどまった。

「例の怪人はその後どうです?」

「それがね、怪人を操っている奴がいるんだとさ」

「操る?」

「そう。それもね、操ってるのは医者だと言うんだ」

「医者が墓を荒らしてるんで?」

「困った噂話さ。なにしろあそこは病院の墓地なんだから。医者が痛くもない腹を探られちゃ商売あがったりだ」

 そう言って担当者は笑った。

「しかしなんでまた墓場なんかに?」

 それを聞いた担当は周囲を見回し、誰も居ないのを確かめてからゼペットの耳元でささやいた。

「死体集めさ。つないで生き返らせ、また怪人を作るんだ」

「生き返らせるって、死んだ人間を?」

 大声を出したゼペットに担当者は眉をひそめ、口元に人差し指を当ててたしなめると、小声で話を続けた。

「その医者にはできるんだよ。なにしろ人を切って病を治すらしい」

「治すのに切るってのは?」

「体を切り裂いて、腐れたところを取り出して、治すんだ」

「そんなに切ったら死んじまうでしょう?」

「だ、か、ら。死人を生き返らせる術を知ってるってのさ」


 †

 

 気晴らしに話をするつもりが、とんでもない噂を聞かされてしまった。ゼペットは帰りの馬車の中で謎の医師とその陰謀について考えた。


(死人をつないで生き返らせる。墓場の怪人は謎の医者がそうやって作ったものだろうか。確かに醜い、死肉をつないだような顔だった……だが待て。墓を掘る道具は持っていなかった。では、何をしていた? 確か墓碑銘を読んでいるようだった。死体を選んでいる? そうか医者の命令か。しかし何のために? 体の大きさだろうか? 性別? いずれにせよ見た目は気にしていない。なにしろあの醜さだ。いやそうだろうか? 死人を生き返らせるような技術をもつ医者が、だ。一目で怪物とわかるような、あんな不細工なモノを作るだろうか? 私なら誰もがうらやむような美しい顔にしてやるのに。私なら……)

 

 いかん。なんと罰当たりなことを考えてるのだ! ゼペットは我に返ると慌てて十字を切った。

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