夏の夜の悪夢
夜の墓場は昼間とは全く別の場所だった。
石灰の臭い。それでも消しきれない不快な臭い。やはり引き返そうか。早々に怖気付いて計画を中止しようか迷っていると遠くに灯りが見えた。ゼペットは大急ぎで近くの墓石の後ろに身を隠すとランプを吹き消した。夜の墓場に謎の灯り……まるでこの間の怪談じゃないか。恐る恐る墓石の上から顔を半分出した。灯りはさっきよりも大きく明るくなっていた。
こっちに向かってきている!
ゼペットは頭を引っ込めた。墓石に背をもたせかけ、額の冷たい汗を拭った。何かの間違いであってくれ。両手を組んでじっとしていると、かすかに足音が聞こえてきた。もう一度ゆっくりと、墓石の上から顔を出した。灯りはもう、はっきりとそれがランプだと分かるほど近くまで来ており、そのランプを持つ手には白い手袋がはめられていることも、照らされた足元には両の足があることも見て取れた。人間であることは、もはや疑いようがなかった。
足音は次第に近づいてくる。ゼペットは墓石の裏に
どうした?
何をしている?
早くどこかに行ってしまえ!
だがいくら待っても物音一つしない。四つん這いのまま体の向きを変え、今度は墓石の脇から恐る恐るもう一度顔を出した。人影は斜向かいの墓前に立ち、ランプで墓石を照らしていた。その様子は
ゼペットはこの考えが気に入った。あり得る話だ。そうだとも。よりによって今夜怪人に出くわすなど都合が良すぎる。見回りならばこうして隠れていればやがていなくなるだろう。
とその時、隠れている墓のちょうど真上辺りの
腐れたような紫。ただれたような赤。カビたような青。
墓場の闇の中に浮かび上がったのは、不気味な色の皮膚ばかりを選んで縫い合わせた――悪趣味なパッチワークのような――世にも恐ろしい怪人の顔だった。
逃げろ!
逃げろ!
逃げろ!
だが意に反して体は動かない。腰が抜けてしまったようで、立ち上がることすらできない。怪人はしばらく音のしたあたりを見ていたが、やがて気分を害したかのように元来た方に去っていった。危機から脱して放心したゼペットは、朝日が昇るまでその場でぐったりと横になっていた。
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