第53話 ナーラ・ポ・ハタ
そして樋田定家に最難関の異文化交流が始まった。
「|Am je Mizire=Zirkodisnar《私はミディレ=ズィルコディスナルです》」
「うん、今のは簡単だな。|Tar Toita, kasn nem je'm《樋田よ、彼女の名前は何だ》?」
「あー、そういう形式? えー、ミディレだが」
「
むう、そうかもしれないが、かなりシビアだな。確かに英語の先生の中には授業に英語をさらさらと使ってくるのが大半なのだが、それを模しているのだろうか。
すると川端は部屋に備えつけられていたホワイトボードに『rang 言語』と書いた。
「Biikte pu, Mizire」
「Am torbadishhe en Imumam. Imumam ansum en Naara fo Hata」
「え……っと」
つい臆してしまう。普段よりはある程度ゆっくり喋っているのだが、初めから分からない表現が多く、ヒアリングも解釈も追いつかない。聞き取れたのは、いつの日か聞いたような単語たち。つまり、イムマムもナーラもどこかで聞いたことがある単語だった。
「これはそのうちいけてほしいが、その顔はどうやらよく分かっていないようだな」
川端は再びホワイトボードに書き記した。
torbadis 産まれる
-hhe 残存(?)
Imumam, Hata 共に固有名詞
ansum en ~にある
そうだ、ansumはすでに聞いたことがある。そして気になるのはImumamもHataも確かに聞こえてきたが、この二つは固有名詞だという。
「ちょうどいい。ミディレの故郷について今わかっていることを俺から解説してやろう。どうやら彼女の出身はナーラ・ポ・ハタと呼ばれるところだ。いうなれば『ハタ王国』だな。イムマムというのもその地名。さっきのミディレ語は自分がハタ王国のイムマム出身だって言っているわけだ」
「ハタ王国……」
だがすでに僕はハタ王国というような感じの国をすでに聞き出してはいた。しかし、川端が「なにが
そんな川端が今回この名称について特にメスを入れていない。
「質問していいか?」
「"Am syaazi zaawer"だ」
「Mizire, am syaazi zaawer」
やった、対に彼女に自分の言葉で質問ができる。さて何を聞いてやろう。
別に胸のサイズなんてそんなすで分かりきった……いや、そんなしょうもないことを訊きたいわけではない。やはりある程度距離感というものを忘れていこう。僕は躍起になったのである。
「
「
「
「Hata... wee? Ansum en Rakortup mo Aranath...」
何かぼそぼそ言ってから、彼女は止まってしまった。全く聞き覚えのない単語を交えつつ、答えに息詰まってしまったらしい。
たとえば地動説というものを広く信じている我々が「日本はどこにあるのか」と訊かれれば、日本はアジアにあり、アジアは地球にあり、地球は太陽系にあり、太陽系は私たちの銀河にあり、私たちの銀河は宇宙にある、と言うほかない。なので、彼女もどこかで「地球」「宇宙」という非常に広い視点から見た地名を口にしているはずだ。あるいは、南米とかヨーロッパとかそういうのを言うかもしれない。
それが聞こえなかったあたり、かなり我々の文化圏と離れてしまっているらしい。藤見の言う通り、本当に「異世界人」だ。
「rakortup......って単語がキーなのかもしれんし、aranathがキーなのかもしれん。ナーラ・ポ・ハタなるものがどこにあるかは今の時点では答えが出ないだろう。あとでググったり世界地図と照合したりするから、火星人説とかはその後だ。よし次、定家、お前が自己紹介だ」
「え? ああ、 Am je Sadaie=Toita」
「Toita...」
ミディレ語では名前が先に来ることはすでに分かっていた。トイタという人名にやたらと反応するのも相変わらずだったが、それは後で聞こうと思った。おそらくナーラ・ポ・ハタの偉人か誰かなのだろうから。
「
「Mmm, Nihon, Kyooto...」
ミディレは、全く知らない名前だなぁ、という目元をしている。
結構やばいかもしれない。一体地球のどんな奥地にガラパゴス・ナーラ・ポ・ハタがあるのか。日本から数千キロも離れたアフリカの子供たちですら「どうやら日本はアジアにあるらしい」ということを知っており、さらに京都は日本の観光業のTouristなのに、いずれの名前も知らないというのは、もはや僕には説明のしようがない。ジパングのキョウトの名前は彼女には通じないことが分かった。
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