三、異世界人観光
第48話 だいがくぐらし
ここは、どこだ。
横目には城の彫のような景色が流れている。この城のような建物を除いては、特徴など全く見当たらないごく普通な日本の郊外のような街並みに到着した。ところどころに旧国鉄の線路が敷かれ、たまに見かける高い建物は大手百貨店か電器屋、向こうにあるのは住宅街、そして山。
名神高速道路を上り続けていた時は、どこに到着するんだろうとか、もしかして山の中かなとか、ひんがしの都に連れて行かれるのかなとか想像していたのに。これでは一般京都市内と変わらない。高さ縛りの条例により建物が低いのも相まって、もはや京都市内の住宅街と変わらない。
「もうすぐ俺のアジトに着くぞ」
「は、アジト?」
「ああ、お洒落な言い方をしておいた方が、期待が持てるだろう?」
目的地からしてすでに全く異郷感がしないのに、ちょっとした語彙の選択なんぞでオシャレ感が出せるわけがない。さらにそれほどオシャレに感じないのもマイナスポイントだ。
要するに、定一もミディレを狙う連中と戦うために一発拠点を構えている、ということだろう。川端も藤見も車の中ですやすや眠っていたので、一同は相当に疲れている。拠点にお風呂があれば万々歳なのだが、さっき「大学に行く」とか言っていたんだから、どうせ仮設トイレと宿直所的なものしかないのだろう。
若干雨が降って来たのか、窓にちょっと水がかかっているのが分かった。斜めに飛び散るように雨に濡れた窓をボタン一つで開けてみると、意外と冷たい風が吹き込んできた。ポロシャツの姿で来てしまったので、ブレザーを着てくればよかったと後悔しかけるが、僕に責任は一切ないはずだ。
「着いたぞ、ついてこい」
名も知らぬ大学構内に勝手に車を止め、定一は僕、藤見、川端、無理やり起こされたミディレを連れて建物に入っていった。内装はそれほど汚れてはいない。手入れも行き届いているので、別に廃校でもなんでもなく、今でもどこかで講義が行われていそうな大学だ。実際、建物内を歩いていると、何度かマイク越しに喋る教授と思われる声も聞こえた。
連れて行かれるがままに定一の背中を追い続けていると、他の部屋と何ら変わらない白い扉のまえで立ち止まった。ついたらしい。
その横にはインターホンのようなものがあり、定一はそれに対して何か話しかけていた。
「なに?」
「千鳥子か。俺だ、開けてくれ」
「...Mizire mo Sadaie?」
「ああそうだ、早く開けろ」
中にいる人の声。おそらく女性。
僕も川端も藤見もおそらく知らない人なのだろうが、ミディレだけは反応が違った。
「...Aam en dii ansum fu?」
「Bantagan phaste. どうぞはいって、サダイチたち」
ミディレ語の会話の後、白い扉があいた。生れてはじめてミディレ語で会話している現場を(川端以外で)目撃したが、早すぎて何が何だか分からなかった。
そこに立っていたのは、よく見てみればどこかで見た顔の女性なのだが、やはり知らない、そんな感じの女性だった。
一つ確実なことが言えるとすれば、その人の顔はミディレに似ていた。
ドッペルゲンガーというのではなく、面影がそこにある。ミディレの顔はまだそんなまじまじと見ることができないのだが、遠目から見た感じは本当にそっくりだった。
身内かと思ってしまうほどに。
川端はすぐさまミディレに聞いた。
「
「
「フムルサーラというのか。いや待て、この子に姉妹がいたのか……」
え、姉妹? 年齢差から見てお姉さんか?
藤見と川端がすぐさま発話の考察を始めた。
「そうか、mansukって言ったから、女性の兄弟なのね」
「確かにそういったな……さすがにドライブの単語リストに登録済だ。ミディレ語では兄弟と姉妹の男女はわけるが、年齢では分けない。だが、見た目からして姉だろうな」
え、じゃあ、この見たことがあるようなないようなよく分からないこの人は、ミディレのお姉さん……なのか?
いや、でも定一の仲間に見える以上は日本語も使えるはずだし、さっきも二人は日本語を使っていたように見えた。ミディレの姉が日本人でした、なんてことはあるまいし、彼女と同じような肩までまっすぐ伸びた黒髪も変わらない。並べてみればあからさまに姉妹だ。
おかしい、見た目は明らかに異世界人なのに、まるで中身は日本人であるかのようだ。行動様式、しぐさ、咄嗟に出てくる日本語、どれを取っても違和感を感じさせる。それでいてミディレ語の会話もそつなくこなすようだ。バイリンガルかと思ったが、それだったら定一の語学力の無さの説明がつかない。
訳も分からず、僕らはその扉の先にある小部屋に入っていった。
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