四つ葉のクローバー(華×良)


小さい頃、四つ葉のクローバーが好きだった。よく公園や、空き地で探した。なかなか見つからなくて、断念することも多かったけれど。


「どうしたの?」


「うーん、なんでもない」


歩きながら、華は歩道の横を細やかに見る。四つ葉のクローバー、四つ葉のクローバー、やっぱ、ないかなあ?


「なんで、よそ見していたの?」


「ご、ごめん…」


華は、良の手をつなぎなおす。あたたかな手。華自身の手は冷えることが多いけれど。横を見ると、まぎれもなく男性が真横にいて、やっぱり女の子と違うなあ、と華は思ってしまう。


「なにを、見てたわけ?」


さりげなく車道側を歩いてくれる良に、華は、しぶしぶ答える。


「えーっと、四つ葉のクローバー…を、探してました…」


華が言うと、良は、ちょっと驚いたように眉を上げた。


「そういうのに興味あったんだ?」


「あったというか…もともと、私、野生児だったというか…」


「野生児!」


良は、少しだけ笑い、華の手を握りなおす。少しひんやりとした手。その手が、しっかり温まるぐらいに、しばらく歩いてから、良は、提案する。


「一緒に探す?四つ葉のクローバー」


「ええ!?良ちゃん、そんなのに興味あったの?」


「そんなのって…」


「え、いや…」


良が、少し顔をしかめ、華の目が泳ぐ。良は華の手を離して、かがみこんだ。道路沿いの空き地。クローバーが、たくさんの白い花を咲かせている。


「ほら。こことか。人がたくさん踏んでいるところの方が、四つ葉のクローバーは多いんだよ」


良が指さして言うと、華は、しゃがみこんで、感心する。


「へー、知らなかったあ。なんでなの…?」


「なんでって、まあ、説明しても…」


「?」


「遺伝子が傷つくから、奇形が生まれやすいっていうか…」


「ふーん」


華は生返事をしながら、クローバーの花をつつく。華の白いスカートのすそが、地面につきそうなぐらいに揺れる。良は、ちょっと横目で華を見てから、かがみこみの姿勢から、しゃがみこみの姿勢になって、真剣に四つ葉のクローバーを探し始める。華のかわいさには、言及しなかった。


「華は、そっちを探してくれる」


「…はーい」


華は、ちょっと不満げな顔をする。たまに良は、偉そうだ。優しいけれど。




クローバーは、道路の脇や、空き地に、小さいものから、大きいものまで、広く分布していた。四つ葉のクローバーは、意外と小さい株にもあったりするので、小さなものも見逃せない。


見つけたのは、華だった。


「あった」


「どこ?」


「ここ、ここ。でも、ちょっと形が悪いねえ」


華は、道路脇のクローバーの葉を、そっと触る。良も、目で確認し、うなずく。


「ああ、そうだね」


「取っていいのかな?かわいそうかな?」


「そうだね…」


華は、じっと四つ葉のクローバーを見る。


幸運を呼ぶクローバー。もっと幸せになりたいと言ったら、よくばりだろうか。


「…見たからいいや。帰ろ」


ずっと四つ葉を探していて、固まった身体をほぐすため、華は立ち上がって、のびをする。5月の風は、少し暖かくて、やわらかい。雨上がりの青い空には、パンケーキみたいな雲が、ふんわりと浮かんでいる。







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