第三十二話 理由
Side ローズ
ドラゴンが襲来してから、それからしばらくの時間が過ぎた。
ロバートは医師に診察してもらい、元気な状態に戻った。その間、ロバートとアルフレッドは友人として仲良くなっていた。ロバートは気さくな性質だし、本人は自覚していないが、世話焼きが好きなようだ。ロバートは魔術においても、知識が豊富であるし、それに年が少し上であるので男同士通じるところもあるだろう。今まで年の近い友人らしい人も、アルフレッドはいた様子がなく、ロバートと過ごす時間はアルフレッドにも貴重な時間だったようにローズは感じた。
ロバートがまた新しい依頼を王国から受けて、旅立つときは、アルフレッドは前日から落ち込んでいた。それに別れるときは、涙ぐんでいた。また近いうちに、ロバートは国で婚約者との結婚式があるらしいので、ローズとアルフレッドを招待してくれると約束をして別れた。
そうして、しばらくしてロバートから手紙がきた。
アルフレッドの叔父が、捕まったらしい。アルフレッドの叔父は、アルフレッドの祖父母に勘当されていたらしい。小さいときから、問題行動を起こし、アルフレッドの母に横恋慕をしていたそうだ。それからあまりの問題行動が続き、国外追放をしたとルボワから聞いた。アルフレッドは自分がうまれる前のことだったので、知らなかったようだ。
ルボワは隣国で、叔父レンドにはしっかり裁かれ、罪を償ってほしいと述べ、アルフレッドとともに返信の手紙を出した。アルフレッドも詳しい経緯は知らなかったようだが、ロバートの手紙の内容には複雑そうな面持ちだった。
それは、アルフレッドの両親の事故死も叔父の呪いの魔術が災いしたという報告があったの為だ。ただそれは、あくまで疑惑しかないようで、もはやその魔術のせいで、両親が事故死したのかは証明できないようだ。ただルボワは、単に呪いのであったなら、ルボワが呪いを察知し阻止していたとも言っている。事故は偶然のものであったとルボワが言う。
アルフレッドとの朝の日課は再開された。散歩をして、体を動かして、そして午後には勉強をする。これからは、アルフレッドとローズは領地の視察をしようとも話し合っていた。
今回のドラゴンの襲来で、領地は大きな被害がでてしまった。そのなかで幸いなことに領民に被害はなかった。建物をたてなおし、そして焼けた田畑を耕し、草花を育てる。
ルボワたち精霊の力を借りながら、草花を育てて、そして実のある土地に戻すことがしばらくの課題になりそうだ。
アルフレッドは、領民たちに実際に接したことで、自分の責任を強く感じたようだ。もともと真面目であるので、勉強も熱心にするようになった。アルフレッドは、両親の発明もいつか自分の手で完成させたいと言っている。
ローズもまだまだ魔導装置については、わからないことが多い。アルフレッドに魔導装置のことを教えてもらいながら、ローズは自分のやれることを見つけていこうと思った。
ローズは、当初の目的通り、ドラゴンの襲来に対して、自分の死亡フラグを回避するため、アルフレッドを部屋の外に出すことに決めた。それからは、いろんなひとの助けで、ローズはドラゴンの襲来があっても、領民に傷を負わせることなく、守ることができた。大きな目標が叶って、ローズの次の目標が見えなくなってきた。自分は何をするべきか、少し迷う日々が出てきた。
それこそ、
ローズは、午後の勉強会が終わり、夕食ができあがるまで庭を歩くことにした。
屋敷の庭は、結界に守られていたので、ドラゴンが襲来する以前のように美しい。領民が避難して庭は開放されたが、また日常が戻り、庭師が整備をすると、また美しい庭園が広がっている。庭は広大な広さであり、先は見えない。このまま真っ直ぐ塀を越えれば、もっと広い野っ原が広がり、遠くに山も見える。視界を
ローズは、庭を歩き出した。このまま遠くに行ったらどうなるのか、というふとした興味がわいた。
「ローズ!どこに行くの?」
その気持ちを引き戻してくれたのは、アルフレッドの呼び声だった。ローズは振り返る。アルフレッドは、また背が伸びたようだ。子どものようだった背丈が、少年らしくなり、もう少し時間がたてば、青年へ変化していくだろう。
「ちょっと、庭の先がどうなっているか気になってしまって。」
「これから行くと、夜になってしまうから。また今度出かけよう?」
「そうね、パンに色々挟んで。おいしい飲み物ももって。ピクニックに行きましょうか。」
「楽しそうだね。」
ローズはアルフレッドのもとへ戻っていく。ローズにとって帰る場所は、アルフレッドの傍なのかもしれない。外の世界には興味があるけれど、アルフレッドの傍も心地がよいのだ。アルフレッドを囲む世界は、優しく、そして美しい。ローズをあるがままに迎えてくれる。ローズが自分らしくいられる場所はここだ。
ローズがここにいる理由は、それだけで十分なのかもしれない。
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