第三十一話 真相

 Side ローズ




「終わった…、無事こえたんだ。」

 


 ローズは膝に力が入らなくなり、思わずよろけそうになった。すると慌てて近づいてきたのは、夫のアルフレッド。ローズの背中を支えてくれた。身長差のある夫婦だが、アルフレッドは少し背が高くなったようだ。それをふと気がつく。



「ローズ?疲れた?」


「ええ、少し。気が抜けてしまって…」


「ぼくも、急に眠くなってきたよ。」




 昨晩も、外の様子が気になりほとんど眠ることができなかった。何人かで警備を交代することになったが、事態がどう変化するか予想できない。すぐ動けるようにしたいと思うと、緊張してしまい深くは眠ることができない。





 『すまなかったね、この辺りを焼き尽くしてしまったよ。』




 空から降りてきたのは、ドラゴンの始祖レッド・マムである。

 そしてローズとアルフレッドの後ろには、ルボワとハンナが傍に仕えていた。

 地上に降り立つと、ドラゴンの始祖レッド・マムはルボワに視線を向けた。





『久しぶりだね。またこの辺りのことを頼んだよ、ルボワ。』


「お久しぶりです。ええ、わかっています。焼けた大地から、また小さな種が降り立ち、芽が出るのを見守りましょう。」




 懐かしい友人のように、ドラゴンの始祖レッド・マムとルボワは会話をする。それを頷いているのは、ハンナである。二人の付き合いはとても長いような口ぶりである。




 「ルボワ、知り合い?」


 アルフレッドはルボワに問いかけた。ルボワは少し考えたあとに、小さく頷いた。

 


 「ええ、わたしの本来の役目は森を守り、育てること。ドラゴンが破壊したあとに、恵みを与え、そして再生することがわたしたちの役目なのです。」


 「どういうこと?ルボワは執事じゃないのか?」


 「ええ、執事を始める前。わたしは森から生まれた精霊でした。しかし、森を焼かれてしまったことにより、弱体化してしまい、アルフレッド様のご両親に助けてもらったのです。それからわたしの執事としての人生がはじまりました。」


 「え!!!!」




 アルフレッドは大変驚いているようだが、その話を聞いてローズはいくつかのことがやっと結びついた。ルボワが人間の気配がないことも、精霊ならうなずける。そして彼と初めて会った森、それもとてもルボワと重なることが多くあった。そうすると傍に仕えているハンナも、また精霊に近い存在とも思える。





 「ハンナもでしょう?」



 ローズがハンナに問いかける。




 「ええ、わたしはルボワ様の眷属ケンゾクです。花の化身です。よくおわかりになられましたね。」


 「ルボワとハンナの気配がなんとなく似ていたから、何かつながりがあるのではないかと思ったのよ。」





 ローズは不思議なつながりに、ただの偶然とは考えられなかった。だが今は予知の力はもうなくなった。左目に封じられていた、ドラゴンの力はもうない。彼らのつながりを推測はできても、実際のところはわからないだろう。


 ルボワのような精霊やドラゴンは、ローズたち人間よりも長い時間を生きる。それこそ時間の概念もまったく違うものだろう。彼らが生きる過程は、ローズが簡単に理解できるものではないのかもしれない。


 

 「やあ、みなさん。よかった元気そうで。」




 声をした方向をみると、目を覚ましたロバートがいた。ローズは起き上がって大丈夫かと心配になった。ロバートにかけより、ローズは体を支えようとしたが、断られる。

 



 「ローズ、大丈夫だよ。そもそも魔力の枯渇で体にダメージを受けたけれど、これは予測していたことだから。」


 「ロバート?」


 「君もぼくの体を通じて、アサル様と話しただろう?ぼくはアサル様に依頼を受けて、この屋敷にくることになったんだ。もちろん、道がふさがれてしまったのは偶然だけれど。もともとここへくることになっていたんだ。」


 「アサル様がロバートに?なぜ?」


 「ぼくが、魔力操作において憑依体質が強いのもある。ぼくの母が巫女であったのもあって、意識をおろすのは得意なんだよ。それに魔力も強いし、ここから比較的近い場所に住んでいるから依頼があった。アサル様は、ローズが元気にやっているか心配されていたんだ。」


 「でも、アルフレッドの叔父様にも意識が操作されていたじゃない?それも計算の内だったの?」


 「それはぼくの方の国でのことでね。アルフレッドくんのおじさんは、いくつかの禁術を使って悪さをしていてね。ドラゴンの召喚についても、かなり熱心に研究されていたようだね。ぼくの国でも、関係のない人に呪いの類いをかけて、実験していたりと余罪があったんだ。そこでぼくは国王から、関連性のある事件を捜査してほしいとたのまれた。」





 ロバートは、隣国の王弟である。彼が今手がけている役職が、国の裏の部分の仕事だった。国には表にできない事件が実在する。その闇の部分を調べたり、捜査したり。ときには制裁をくわえることもあるようだ。確かに国を治めるということは、きれい事だけではない。汚いことも含めて、すべてを飲み込む覚悟がなければ、国を治めることはできない。ローズも少なからず、そういった部分は知っている。王家の生まれであるこその、暗い部分があることも知っている。


 ロバートの話を聞いてローズは、自分の考えを改めた。ローズは自分だけで事態を乗り越えなければならない、とずっと思っていた。しかし、ローズは思い違いをしていたことに気がつく。自分はいろんな人に守られていて、助けられていたのだ。自分だけが大変だったのではなく、みなそれぞれに使命をもち、必死に戦っていたのだ。今、平和が訪れたのはみなのおかげであること。ローズは改めて感謝の気持ちをもった。




 

 『黒いドラゴンは、人間と通じてたようだね。前回取り逃してしまって、ローズの体を借りてずっと黒いドラゴンを見張っていた。ローズも感じたことがあるだろう?誰かに見張られている気配を。』



 ドラゴンの始祖レッド・マムがローズに話しかけてきた。ローズは頷いた。



「ええ、感じていました。そしてドラゴンの始祖レッド・マムが見せてくれていた夢…今回のこと。それだけじゃないたくさんの危機を乗り越えることができました。」


『ほんの一部の力を貸したに過ぎないのさ。それでどう動くかはあんたががんばった力だと思うがね。たかだか人間ごときに生まれるのは惜しいよ、次に生まれるときはドラゴンにうまれるのをおすすめするねえ。』


「あら、それも楽しそう。でもまた人間でもいいかも。この世界は美しくて、楽しいから。」


『ローズから見た景色はいつも楽しそうだったねえ。人間なんぞ興味はなかったが、悪くはないとは思った。干渉はする気はないが、破壊されるのもシャクだ。しばらくは、静かになるとは思うがな。時期に、ドラゴンを召喚しようとしたやつも捕まるだろう。アサルが動いているようだ。』


「え、ドラゴンの始祖レッド・マムもアサル様をご存じなの?」


『ふるい知り合いだ。さて、わたしはこれらと一緒にもとの場所へ戻るとする。ドラゴンの体を放置してはいろいろ面倒なんでね。ルボワ、頼むよ。』





 ローズは、ドラゴンの始祖レッド・マムとアサル様、そしてルボワに何らかのつながりがあることもわかったが、それ以上は聞くことができなかった。ルボワは時空を開く術を使う。ドラゴンは召喚できたとしても、時空を操作する魔術はコトワリから外れる。それは人間ではできない魔術であった。ルボワとハンナが協力して、時空を開くと、赤いドラゴンと倒れたドラゴンたちを転送することにした。そして彼らが時空の先に姿を消すと、また静かな日常が訪れた。





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