第三十話 朝の光 Sideアルフレッド
Sideアルフレッド
ドラゴンの息に飛ばされ、赤いドラゴンと黒いドラゴンが対峙する場所から離れたところで降りた。そこではまだ避難を誘導しているルボワとハンナがいた。屋敷で働いているものたち全員で、屋敷の敷地内へ領民たちを誘導している。開けられる屋敷の部屋を全部開けて、病人のひと、女性や子どもたちを優先して内部へ案内する。動けるものたちは、屋敷の見回りや何か不自由がないかなど伝達係になる。係を決めて料理をするもの、配膳するもの、そして備蓄してあった日用品などを配るものなど、ルボワとハンナを中心に指揮をしる。
アルフレッドたちは、ルボワに近づき、状況を確認しようとした。
「ルボワ、領民の避難はどのくらい進んだ?」
アルフレッドがルボワに尋ねる。相変わらず涼しい顔をしたルボワであったが、アルフレッドの姿をみてほっと安堵したように顔を緩ませた。
「アルフレッド様、ローズ様。よくぞご無事で。領民の半分は屋敷に到着しました。また遠い場所にいる人々は、それぞれハンナが伝達係になり、転移装置使い屋敷に誘導しております。ロバート様はどうにか、峠を越したようです。絶対安静ですが、今は小康状態になっております。」
「ロバートさん、よかった。屋敷の結界はどのくらいもちそうだ?」
「はい、伝記によりますと。ドラゴンの襲来があっても、この屋敷の結界だけは破られたことがないそうです。もし街が破壊されたとしても、民が無事なら何度でもやり直せます。今は、
「そうだね。」
説明を聞きながら、何度も大きな地震が起こった。ドラゴン同士の戦いが始まったのだろう。屋敷は無事であるのだが、敷地外は破壊され、炎で燃えているだろう。でも屋敷の敷地のなかは、いくつもの厳重な結界があるので、何事もない。結界の外の光景は、もう穏やかなものではなく、炎が吹きあふれ、そして風が起こり、雷が降り注ぐ。屋敷の外の光景は、まるで地獄のようだ。これが、ドラゴン同士の戦いというものだろう。人間が決して抗うことのできない、人の力を超えた災厄。
ローズも心配そうに外を見ているが、領民たちのケアをするため、手伝いをし始めた。
ローズの左目は、もう赤くはない。彼女の青い瞳が綺麗である。
「ぼくに何かできることあるかな?」
アルフレッドは腕まくりをした。ルボワが屋敷を指揮しているし、領民のケアはローズが率先している。自分は特にできることはない。
「アルフレッド様は、どうか皆様のお話を聞いてあげて下さい。アルフレッド様こそ、この領地の主。皆が不安になっているときこそ、話に耳を傾けて下さい。ただそこにいるだけで、民は癒やされるのです。アルフレッド様はいるだけでいいのです。」
「ぼくが?」
「ええ、わたしにとってもアルフレッド様がいるだけでいいと思っています。素晴らしいことをしなくても、誰よりも優れていなくても。わたしたちにとって、アルフレッド様は唯一無二の存在。わたしにとっては、主。ローズ様にとっては、夫。こうやって、自分の力で立ち上がり、皆の前に立ち、立派になりました。わたしの誇りです。」
「なんだかルボワ、今日は変だ。いつもは口うるさいだけなのに。」
「わたくしとしたことが弱気になっているのでしょうかね。そうそうないことでしょう。ドラゴンがきて弱気になったのですかね。」
「ぼくだってドラゴンは怖いよ。でもぼくは信じる。きっとまた穏やかな日々が送れることを。」
「わたくしも願っております。」
「じゃあ、ぼくはローズと一緒にみんなの話を聞いてくるよ。」
「はい。」
ローズと一緒にアルフレッドは領民に話しかけ、そして話を聞いた。
何度も地震は起こるし、そのたびに民達は不安そうに顔を曇らせる。子ども達は泣き始める。どうにもならない状況を悲観して祈るものもいる。
パンが焼き上がる声が聞こえると、配膳係と一緒に領民にパンとスープを配った。そして夜になっても、まだドラゴンの戦いは続く。不安な夜が訪れた。しかしアルフレッドは、民に語りかけ、ともに時間を過ごした。今は身分など関係なく、一緒に眠り、一緒に起き、ご飯を食べる。願うのは、また平和な日々がくることだ。
そして、朝がくる。
朝日がのぼるころに、地震が静まり、辺りの音も止んだ。
アルフレッドはローズと一緒に屋敷の外に出た。
赤いドラゴンが悠然と飛行している。その下には倒れた緑のドラゴン、そして黒いドラゴン。
赤いドラゴンが勝った。
明るい朝が訪れた。屋敷にいた領民たちは、その吉報に目を覚まし、喜びを分かち合った。そして小康状態が続いていたロバートも容態が落ち着き、目を覚ました。
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