第二十六話 勝敗 Sideアルフレッド
Side アルフレッド
「パフォーマンス終了です!熱い両者の戦いでしたね。」
アルフレッドはロバートに近づき、手を差し出した。
ロバートはふっと笑みを浮かべ、アルフレッドの手を握る。力強く握手をした。
アルフレッドは前日までいろんな作戦をたてた。しかし純粋に魔術だけでは勝てないのは、最初からわかっていた。地味な勝ち方であるが、自分にとっての勝ち方を模索した。
「両者、それぞれに個性のある戦い方でした。今回のパフォーマンスは、前評判を街の人々に聞いてみると、やはりロバートさんが優勢でした。まあそうですね、魔術の容量がすぐれているお方です。魔力を感じられるものなら、圧倒的なロバートさんの優勢に見えるでしょう。」
「そうだね、魔術容量は圧倒的にぼくが有利だった。でもアルフレッドくんがそれだけで終わるとは考えてはいなかったよ。だから注意はしていた。」
ルボワがロバートとアルフレッドに近づくと、それぞれにインタビューを開始する。これから簡単にパフォーマンスの解説に続き、民衆の採点へうつる。
「ロバートさんの魔術は、レインボーカラーで、見ているだけで楽しめる魔術として、とても評価できたと思います。その点、アルフレッド様は地味と感じる点もありますが、ロバートさんはどう考えますか?」
「そうだね。魅せるといったことについては、僕の魔術は評価できるだろうね。ただ、攻撃が当たった感触がなかった。それは不思議に思っていてね。観客の方々も気になっているだろうね。」
「それは思いました。アルフレッド様、これはどういった仕掛けですか?」
ルボワがアルフレッドに問いかける。
「ロバートさんの魔術を弾く魔術を最初にかけました。あえていうなら、滑るといった感じの魔術です。」
「すべる?」
ロバートが目を丸くした。
「簡単に言えば、方向を変えるといった魔術です。」
「反射と似た原理かな。」
「大体そうです。それが一番魔力を使わずに、魔力を受け取る方法だと思ったので。」
「そう、ただ魔力の行き先をかえただけじゃないな。」
「はい、ロバートさんにはわからない程度に同時に魔力吸収の魔術を使っていました。そして吸収した魔力を使って、小さな閃光を飛ばして、最初の目眩ましをしました。」
「目眩ましをしている間に、足下に魔術をとばして、僕の足に紐状の魔力の紐をつけた。そしてぼくが気をとられている瞬間を狙って、紐を引っ張ったということだ。」
「そうです。」
ロバートは感心したように頷く。アルフレッドはあまり魔力容量が大きくはないため、魔力を使わず、不意をつくことで相手の大きな魔力に隠れて、いくつかの魔術を発動させたのだ。どれも小さな魔力ですむかわりに、タイミングがずれてしまっては、全部が失敗する可能性があった。そのため何度も練習をした。魔術そのものの練習より、タイミングの練習が大変だったのだ。魔導装置は、魔力が枯渇したときの予備として携帯しただけだ。使わずに済んだ。
「アルフレッド様の作戦が勝ったということでしょうか。ですが、これはパフォーマンス。勝ち負けだけでは採点は決まりません。観客の皆様、よりよかったという方の紙をあげてください。ロバートさんは白、アルフレッド様は赤です。」
ロバートの相手を褒める姿勢も評価されたのか、またロバートの見た目のハンサムさにも人気があるのか、ロバートとアルフレッドの評価は真っ二つに分かれた。そして、最後はアルフレッドの妻であるローズの採点でパフォーマンスの勝敗が決まることになった。
ルボワは、観客席のローズに近づいた。
「ローズ様、観客ではそれぞれの人気があり、評価がわかれています。ローズ様の感想はいかがでしょうか。」
「ええ、とても両者がんばったと思います。ロバートは華やかでとっても楽しませてくれましたし、アルフレッドは頭脳と好プレーがあったと思います。それぞれ、戦う相手に敬意を表した態度もいいと思います。どちらも甲乙つけがたいですね。」
「そうですね。両者とも自分にあったプレーというものを魅せて下さいました。」
「はい。そこで明確にわかりやすいということで、床に手をつかせたアルフレッド様の勝ちということで採点させて頂こうかと思います。やはりルールをみた上で、それが妥当であると考えました。」
「公平な判断です。ローズ様はアルフレッド様に加点。観客の皆様の点に、ローズ様の採点を足します。」
会場では勝者のアルフレッドの赤い旗があげられた。今回のパフォーマンスはアルフレッドの勝ちだ。 同時に大きな拍手が会場にわきたった。長い間民衆に姿を見せなかったアルフレッドであったが、その存在をここで見せるという点でも、今回の意義は大きかった。
まだ小さな領主ではあるが、民衆が「アルフレッド様!!!」とコールをする。これから、民衆と一丸となって、領地を発展させることが期待される視線を感じるアルフレッド。部屋にいたときは、自分は一人だと思っていた。誰も自分なんかみてはくれないと思っていた。
だが、今はロバートが笑顔で拍手をしてくれる。そしてルボワもいる。遠くには観客席からローズもいる。ステージを囲む、領民達…彼らがいる。アルフレッドはひとりではないと今強く感じることができた。やっと、一歩すすめた実感があった。外にでた実感をもてた気がした。
アルフレッドはこの機会をつくってくれた、ロバートに感謝の気持ちを伝えたく彼を振り返った。
しかし向かった視線の先で、ロバートは倒れていた。
「ロバートさん!!!!!!」
アルフレッドは慌ててルボワに視線を向けた。
ルボワが手当をしようと、ロバートに近づく。しかしルボワが近づこうとすると、まがまがしい気配を感じ始めた。会場が晴天であったのに、雲行きがあやしい。嵐がくる前触れのように空が暗くなってきた。
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