第二十五話 戦い  Sideアルフレッド

 Side アルフレッド



 開始のコールとともに、両者向かい合いそれぞれの術式を唱え始める。

 アルフレッドはロバートが口に出した術式を聞き、彼が繰り出すいくつかの魔術の可能性を考えた。ロバートの発している術式は、『虹』『発光』そして『爆発』といったもの。それぞれの術式は、魔力が大きく必要ではない。だけれど、派手でまさにパフォーマンス向きの魔術だ。


 アルフレッドはとなえていた術式を完成させて、ロバートの魔術を待った。


 


 「さあ、パフォーマンスだ!アルフレッドくんの実力を見せてくれ!」



 ロバートは小手調べに発光した光を発生させ、周囲にその閃光が広がる。ロバートの周囲を舞う光。まさに王族としての華やかさが際立つ。そして一つの閃光が、アルフレッドに向かって走ってくる。ぶつかったら爆発してしまう。アルフレッドは、さきほどとなえた術式が発動するかみるために、あえて今の場所から動かなかった。


 ロバートの発した閃光は、虹色に輝く光。まさに民は大声で歓声をあげる。術の派手さに比べて攻撃的の威力はどうだろうか。



 「ロバート様が発した光が、アルフレッド様に襲いかかります!」



 実況をし始めるルボワ。

 アルフレッドは立ったまま、光を受けた。



 「ほう、君の奇妙な術か。」



 しかし光は、アルフレッドに到達するまえに爆発した。そしてその爆発も小さな閃光のみで、力がなくなってしまう。



 「どんなしかけがあるのか、小手調べだね。」



 ロバートは同じ術式を今度は複数繰り返した。こんな術を同時にいくつも飛ばすのは、さすが魔術学院出の、王族といったところだろう。知識も実力も多分にある。



 「でも、ぼくだって」



 アルフレッドはじっとまっすぐロバートを見つめた。いくら実力がなくても、いくら知識はなくても。アルフレッドは、今日は全力で戦うと決めていた。もし戦場でロバートに出会ったら、きっと負けてしまう。でもここは、ステージの上。方法は、ほかにもある。


 ロバートが大きな虹色の閃光を発したかと思うと、複数の閃光がまっすぐアルフレッドを襲ってきた。ハレーションのような虹彩と、大きな光の舞いは見た者を楽しませる。


 しかしその閃光がすべて、アルフレッドの前に到達する前に、小さな光となって、消えてしまう。ほぼ無効化しているのは、アルフレッドの行った魔術が成功しているということだ。



 「君は、難解な魔術を使うね。魔術の無効化か。難儀な魔術だ。どこまで耐えられるかな?」



 ロバートは長い詠唱を唱え始めた。

  アルフレッドはその詠唱を聞きながら、『爆発』『繰り返す』『広範囲』ということがわかった。今度は大がかりな爆発で、アルフレッドの実力を示すらしい。


 アルフレッドは術式を唱えた。


 そしてロバートは詠唱を終えると、両腕を前にかざした。向かう先を指さした。アルフレッドに手を向ける。



「さあ、アルフレッドくん。次はどうする?」



 ニッと笑みをたたえたロバートは魔術を発動して、大きな密度の高い魔力をアルフレッドに向けて放った。


 アルフレッドはまたそのまま立ったままだ。しかし頭ではいくつもの計算をしている。ロバートの唱えた術式、そして今こちらを襲う魔力。微量の計算狂いが、命取りになる。


 アルフレッドにその放たれた魔力が襲ったかと思えば、大きな爆発が起こった。そしてその爆発により、アルフレッドの姿は見えなくなった。民衆は騒然とした。まともにこんな魔術を受けてしまったら、ただではいられない。もしかしたら大けがをしたかもしれないと、観客はざわつく。


 見ていたローズも、少し心配になり観客席からアルフレッドを見守る。


 しかし爆発をしてアルフレッドの姿が消えたと思った瞬間、虹色の閃光がアルフレッド側から発せられた。

 それは最初にロバートが発した閃光そのものだ。


 完全に勝ったと思ったロバートは不意を突かれた。そして爆発音もあって、その小さな閃光がロバートに飛んでくると察知したのがおくれたのがいけなかった。


 パン!!!と閃光がロバートに当たった。

 ロバートは足下がふらつき、危うく床に手をつきそうになる。



 「苦し紛れの、攻撃かな?カウンターを狙ったつもりだけれど、それじゃ弱い。」



 ロバートはもう一度、大きな魔術を唱え始めた。



 「さあ、追い込むよ。多少ケガをしても、君なら防ぐだろう。地面に倒れてもらうがね。」



 そしてまだ爆音が生じたばかりで、アルフレッドのまわりに硝煙が残っているところにロバートはまた大きな魔力を打ち込む。


 アルフレッドがいる方向へ閃光は走って行き、また大きな爆発音が響く。



 「さあ、これで決まりだ!!」



 ロバートは勝利を確信した。

 しかし足を踏み出した途端、ロバートは違和感を察知した。そう、足がいうことをきかない。そしてく いっと右足を引かれる感覚があると、盛大にロバートは床に転げ落ちた。そして床に手をついたのだ。



 「え、どういう?!」


 ロバートは何が起こっているかさっぱりわからなかった。勝手に足が動いて転んでしまった。それを見届けた、審判のルボワが手を上げる。


 「ロバートさん、手をつきました。さあ、アルフレッド様は手をついているでしょうか?」


 爆発の終わったあとのアルフレッドの姿がうっすら見えてきた。

 二度も大きな爆発に巻き込まれたなら、きっと無事ではないだろう。倒れたものの、ロバートは勝ちを確信した。しかし爆発から光が消え、姿が見えてきた。アルフレッドはまるで無傷だった。服は破れているところはあったが、ほぼダメージは受けていなかった。


 ロバートは負けを悟った。



 「アルフレッドくんの勝ちだな。」



 そしてルボワが手を上げて、パフォーマンスが終わったことをサインした。

 あっというまの時間に、民衆は目を見開いて見入っていた。

 まさか温厚でおとなしい領主のアルフレッドがここまで健闘するとは、誰も思わなかっただろう。大きな歓声が起こり、会場は熱気に包まれた。





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