第二十四話 開始  Sideアルフレッド



 Side アルフレッド






 街は朝からにぎわっている。屋敷から街を通る中央大通りまでは一本道である。この領地全体が、山々に囲まれた場所であるので、屋敷までの通路はいり組んだ作りをしていない。


 はるか昔、ここで土地を治めた初代の領主は、民と等しき間柄を目指そうとなるべく屋敷へ来やすいように道路を整備したという。

 大規模な政策はできないし、都市部のような利便性はない土地柄だ。だが住みやすく、ゆとりをもって生きていける雰囲気がここにはある。

 アルフレッドは、両親とほかの領地を回ったことがある。アルフレッドは、それでもここ以上にいいと思う土地はなかった。自分の治める領地こそ一番であると思っている。

 一時期は、部屋に引きこもり、この地域のことを考える余裕がなかった。そう考えると、ルボワは本当に自分を支えてくれたと思う。アルフレッドは、感謝の気持ちをもてるまで、心が強くなっているのが感じられた。

 

 でも、今でもふと現実が辛くなることもある。ただ今を嘆いているだけでは、何も解決しないと、ローズをみて学んだ。彼女はどんなときも、今ある現状のなかで一番いい選択をしているようだ。ローズの考え方は、とても前向きであるが、とても自然で、合理的な考え方だ。


 アルフレッドは今日のパフォーマンスのために、いくつかの魔導装置をベルトに引き下げている。

 久々の外の空気に、ルボワに連れられ、メイン会場に連れて行かれる。街の中央にあるステージが今回のパフォーマンスのある場所である。


 朝からいつも通り、ご飯を食べて、ローズに声をかけてもらい、今日のパフォーマンスの用意をした。ローズはほかの地域からきている大道芸人などのパフォーマンスなども見たいと言って、ハンナを連れて出かけていった。アルフレッドは魔導装置のメンテナンスをして、自分が出演する時間ぎりぎりまで部屋にこもった。





 「アルフレッド様」



 ルボワが部屋にきて、服を用意してくれた。動きやすいように、そして多少の魔力を防げるように、術式を編み込んだ布で作った服をつくった。これながら万が一、魔力が自分へ向かってきても、それほど大けがにならないだろう。




 「ステージは人集まっている?」


 「ええ、街中の人々がアルフレッド様をみたいと。そして美しき奥様を一目見たいと集まっています。ローズ様は先日の豪雨でも大活躍でしたが、以前からハンナと出歩いて、交流されているようです。みなさんのアイドルですよ。」


 「それは、よかった。」



 ローズが領民に好かれることは喜ばしいことだ。

 ローズがこの領地を気に入ってくれ、領民を好きになってくれれば、ここにとどまる理由になるかもしれない。もし自分に愛想をつかしても、ここへとどまってくれる理由が増えるなら、アルフレッドは安心できる。自信がないゆえに、そういう卑屈なことさえ考えてしまう。でも恥などない。自分に誇れるものがないと思っているなら、どんなことをしても、ローズにここに居てほしい。積極的には行動はしなくても、そういうことならできる。アルフレッドはそういう行動力のなさは反省するが、今は手段を選んでいられない。

 

 まずはロバートにローズにふさわしい人間である、というのをみてもらうのが今回の目的だ。勝ちに行くつもりで作戦をたてた。もし勝てなくても、一矢を報いるつもりである。


 自分が誰かに勝ちたいと思う日がくるとは思わなかった。明らかに自分よりすぐれた点が多くあるロバート。少し前の自分なら、絶対に勝ち目のない戦いなど放棄したに違いない。でも今は違う。ローズが傍にいてくれるためにも、少しの可能性でもかけたいと思った。でもみすみす負ける必要もない。大きな差で勝つ必要もない。


 アルフレッドはいくつかのパフォーマンスを脳内でシュミレーションした。

 どうしても勝つイメージはもてないが、自分がもてる知識を集結して考え出した。


 ルボワにならってステージにオモムいたアルフレッド。

 そこにはマントをしたロバートが立っていた。





 「僭越センエツながら、わたくしが今日のメインイベントの司会進行をいたします。ルボワと申します。」




 そしてステージの中央に立ったかと思えば、今まで司会をしていた人にかわってルボワがこのパフォーマンスの司会進行ならびに審判などすべて引き受けるというのだ。身内びいきになってしまわないかと思ったが、どのパフォーマンスがいいかは民衆を見れば一目瞭然だ。あくまで戦いではなく、領民にみせるために披露する場所なのである。




 「今日のアルフレッド様は、寝不足気味のようですが。朝ご飯をおかわりしましたので体力・気力ともにみなぎっております。ロバート様はいかがですか?」


 「やあ、皆さん。ごきげんいかがですか?わたしはここの領主アルフレッドくんの妻ローズの友人のロバートです。何かの縁もあり、この場でパフォーマンスさせてもらいますが、楽しみたいですね。調子はまずまずですよ。ちょうどいいくらいですね。」




 ロバートは今日の様子は普通であった。誰かにコントロールされている気配は今のところ見受けられない。もし何かあってもルボワが観客席を守ってくれるだろう。そのための司会をしているのだと思われる。ローズも一番よい席で、この様子をも見守ってくれている。




 「ロバート様も好調ということで、期待できますね。さて今回のパフォーマンスはいくつかのルールがございます。採点方式がありますので、よくお聞き下さい。まずは、観客に赤い紙と白い紙を渡しています。赤い紙はアルフレッド様、そして白い紙はロバート様の紙です。よかった方を上げてしてください。そして皆様の票に加算して、領主の妻であります、ローズ様がよかったと思った方へ投票していただきます。ローズ様の票はボーナス点です。何票をいれるかは、ローズ様が好きに決めていただきます。」


 ローズの方を見れば、気に入ったほうの旗をあげるというもので、今は赤と白の旗を両手にもっている。楽しそうである。




 「そしてパフォーマンスですが、お互いの魔力の対決が今回のテーマとなります。そこでお互い倒れない限りの魔力のぶつけあいです。しかしケガをさせたり、それ以上のことになりましたが失格です。どちらかが地面に手をついた時点で負けとなります。しかし、あくまで負けは形式的なことで、どちらのパフォーマンスがよかったかという基準で判定をされます。」


 単純な勝ち負けではないところが、この勝負の勝機だとアルフレッドは考えていた。いかに楽しんでもらえるか。それはアルフレッドが考える魔導装置においての、信念と似ているところである。魔導装置とは本来、人を助け、人の暮らしを便利にするもの。危害を加え、人の暮らしを破壊するためのものではない。だから両親はその扱いには十分に気をつけていた。


 お金儲けに走らず、みんなのために使うこと。それがアルフレッドの魔導装置への信念である。


 両者がステージの中央にたち、それぞれにパフォーマンスの開始をまつ。




「さあ、はじまります!」




 ルボワがコールをすると、大きな笛の音がした。パフォーマンスが開始された。



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