第十九話  気持ち  Sideアルフレッド

 Sideアルフレッド






 雨の日が続いていて、地盤が緩んでしまい、当分は道が危険だということでロバートの屋敷の滞在が延びるそうだ。それをベッドで毛布にくるまった状態で、ルボワから報告を受けたアルフレッドであった。さすがにルボワの口調も冷たくなってきて、いつも感情があまりない抑揚の声色であったが、特に今日は声に感情がない。明らかにアルフレッドを非難しているのはわかる。


 ルボワは完全にローズの味方である。ルボワはローズが心配していると毎朝お小言をいうが、アルフレッドが誰にも会いたくないと言って部屋に鍵をかけた。ロバートがいる手前、ローズも部屋に押し入ったりはしないだろう。ロバートさえいなければ、ローズは自分を迎えに来てくれるだろうと、アルフレッドはまた黒い感情がわき出てきた。アルフレッドからすれば、すっと自分だけを見てくれていたローズが、かっこいい学友と楽しそうに話すのを想像しただけで気分が悪くなる。

 

 そんなときは、魔導装置のスターの姿を映し出せば、少しは心が癒える。自分が本当に心を開いているのは彼女だけ。スターは名前をアンジェラという。天使のような彼女。彼女の詳しいプロフィールはわからない。ただ年齢は17歳だという。何年前から17歳と言っているので、実年齢はわからない。ただ年齢を経ても、美しく輝き続ける彼女を見ているだけでいいのだ。自分にはお嫁さんなど過ぎた存在だ。



 「アルフレッド様、昼食はいかがいたしますか?ローズ様がいっしょにどうかとおっしゃっていますよ。」



 そんな夢の時間を邪魔するのはルボワだ。もう昼を食べる時間なのかとおも思う。朝ご飯も食べる気力がなくて、ほとんど手をつけなかった。昼もそんなに食べたいとは思わない。



 「いらない」


 「そうはおっしゃっても、ローズ様にはなんとお伝えすれば?」


 「僕は……知らない」


 「悲しまれますよ」




 ルボワは責めるように言葉を続ける。そうだ、ローズは怒らないできっと悲しむ。ローズは気性が激しいが、我慢強いし、滅多に怒らないことがわかった。プライドは高いのだが、いい意味で上昇志向が強く、タフな精神と肉体を持っている。 自分とは真逆の存在。


 自分は、打たれ弱く、我慢ができない。それにすぐ泣いてしまうし、すぐに落ち込む。プライドはあるのだが、人と競ってまで何かをしたいほどのプライドではない。すべてにおいてダメなのである。だからローズみたいな人に惹かれる。自分にはないものがあるからこそ。



 「じゃあ、どうすればいいんだ?」


 「ご自分の今のお気持ちを伝えればよろしいかと」


 「僕の気持ち?」




 そんなの口にしたら、呆れられる。それにみっともない。子どものように癇癪を起こして、ふて腐れて、ローズに相手にしてほしいみたいじゃないか。とアルフレッドは自分の気持ちに向き合い、首を大きく横に振った。




 「迷惑になる」


 「十分、現在進行形で迷惑おかけしていますよ。」



 ルボワは率直に答える。それはそうだ。既に心配をかけている。



 「これ以上嫌われたくない」


 「ローズ様が、アルフレッド様をお嫌いになりますか?」


 「わからない。でも、そんな気がする」



 アルフレッドは混乱してきた。自分は彼女に部屋にきてもらい、また連れ出してもらいたい気持ちがある。しかし彼女の隣にいるロバートには会いたくない。この気持ちはなんだろう。彼女をとられたくないのだろうか。そもそも自分のものでもないのに。恋愛感情などなく、勝手に決められた婚姻でお嫁さんに仕方なくなってくれているローズに、これ以上負担をかけたくない。



 「ローズ様はそんな方ではない気がしますが」


 「でも、好きかどうかなんてわからないだろう!!」



 思わず怒鳴るように言ってしまうアルフレッド。そうだ、好き。アルフレッドはローズのことが好きになっていたのだ。最初は恋愛の好きではなく、飼い主になつくような好き。そして自分を面倒みてくれ、支えてくれる姿が家族のような好き。でもやはり彼女はとても綺麗な人で、魅力的な人だった。だから女の人として惹かれている。でも、彼女はそういう存在としては、決してアルフレッドを認識していないだろう。年の離れた年下の夫。偽りの婚姻。自分は決してお嫁さんに、恋愛対象として好かれることはないだろう。


 アルフレッドは自分の気持ちを自覚して、ひどく絶望した。もう失恋決定じゃないかと思ったのだ。ローズが親切にしてくれるのは、彼女をみれば、同情や憐憫レンビン。そして何かあるように思える。何か彼女は言わないが、抱えているものがあるように感じる。時々辛そうに顔に手を当てる仕草をしている。



 「彼女に自分の気持ちを言っても、迷惑だけだ」


 「そうですか。後悔、しませんか?」


 「……わからない」




 アルフレッドはひどく混乱と絶望と、悲しみとが混じり合い、今は一人になりたかった。ルボワはまだ何かいいたそうだったが、今の自分にはどうすることもできない。ロバートがもし去っても、自分はこの先どうやってローズと暮らしていけばいいのだろう。彼女の顔を見るのが怖くなる。アルフレッドは自分が無様で情けないのは自覚しているが、経験値もないし相談する相手もいない状態では、事態をどう受け止めればいいのかまったくわからなかった。





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