それから
3.
半年ほど彼との交際が続いた。
昔よりは頻度は落ちたがメールや電話のやりとりは続けていたし、都合がついたら会うようにしていた。
ただ、彼の方が精力的でなくなってきたのもたしかだった。人間慣れるものだし、しかたのない部分でもあったがなんとなく寂しい気もした。
彼が万引きをする現場を発見したのはそのころだった。
一週間ほど前にデートの約束をして、待ち合わせ場所と時間を取り決めた。
当日、はやくに目がさめたことと付近に大きな本屋があったことを思い出して家をでた。
時間があったこともあり新刊の棚を眺めていたときのことだった。お気に入りの作家の本がないかタイトルにチェックをいれ、気になったものの位置を覚えてその場から離れた。
時間もあったのでファッション誌でも立ち読みしようかと思って近くまで寄ったときに、雑誌の隙間から彼が反対側に後ろを向けて立っているのがみえた。思わぬ事態におどろいたが、突然声をかけたらどんな反応をするだろうと興味がわいて気づかれないように彼の背後に回った。
彼はどうやら腕時計や古着類に興味を持っているようだった。ただしどことなく周囲に気を払って警戒しているようにも見えた。そっと物陰に隠れながらわたしが不思議に思っていると、ほかより一回り小さい雑誌を手に取り、それをすばやく手提げ鞄の中に放り込んだ。
一瞬なにが起こったのかわからなかった。我に返ったのは彼が振り返ってからだった。明らかに狼狽した様子の彼がなんでもない、と手を振り続けるのがかえって今起こったことの真実味を際立たせていた。
わたしは黙って首を振り、できるだけなんでもないふうを装った。わたしもはやめにきちゃって本屋にきたの、と笑った。彼は長いため息をついて取り繕った声音で、そうだな、とあいまいにうなずいていた。
当然ながらその日は会話も続かず、わたしが話しかけても上の空でぎくしゃくとした態度だった。そのうちに彼から今日は調子が悪いから、と理由を付けて昼食も食べずに別れた。
わたしはなにも気にしていないのに。
あなたのすることならなんでも許してあげられるよ。
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