2.

 高校は趣向を変えて美術部に入部してみたのが失敗だった。

 わたしは絵の基本などを知らず、自分で工夫して描くというのができなかった。周囲が現実にはあり得ない幻獣や天使、青いハイライトをかけた風景画を見てわたしは意気消沈した。わたしのやっていることは模倣にすぎず、自らなにかを生み出すことができなかった。よく作る小物も、現実にあるものを真似して作ることがすべてだったからだ。

 部活は半年間ほどしてほどなくやめた。

 そのあとは比較的普通に過ごし、友達と一緒に普通の高校生活を楽しんでいた。とくに読書家のグループに入れたのが功を奏した。昔懐かしい物語に没頭する感覚を思い出して、気がつけば深夜になっていてあわてて就寝することがままあった。

 そのうちに友達の一人に彼氏ができ、周囲はそれをからかうという遊びが毎日のように行われた。からかわれた友達も照れたように笑いながらもまんざらではないようだった。それをみて笑いながら、すこし羨む気持ちが生まれたのもたしか。

 残念ながら高校在学中にそんな機会が訪れることはなかったが。


 しかし思ってもみないこともあるものだった。

 県内でも偏差値が高い方の大学を志望してなんとか滑り込むことができた。文系の大学で本が好きになったことを契機に文学を勉強してみたいと思ったのだ。

 環境が変わったこともあってしばらくは勉強や人間関係づくりで苦労した。そのうちに半年ほどが経過した。

 突然何度か話をした程度の間柄の男子に中庭に呼び出され、怪訝に思うのも束の間に思いの丈を告げられ、わたしはよくわからないまま承諾していた。経験したことがなかったので対処がわからなかったのだった。

 現実味のないまま誘われるまま毎日のように電話をし、食事に、ときにデートを繰り返した。彼がわたしに好意を伝えるたびになんとなく実感がわいてきた。

 余裕もできたわたしは彼の好みを察知し、徐々に外見に手を加えていった。

 あまり力の入れなかった化粧に時間をかけ、手入れしないまま延ばしていただけだった髪の毛をカットし、短めにゆるくパーマを入れた。服装の趣味も彼にあわせて大人っぽさを加えて甘さを残した。時折キャラクターものをほしがったのも彼にあわせるがままに行っていたことだった。キャラクターを愛する女子、という幼げな特徴が彼には好みに映るらしい。

 久々に一同に会する機会に恵まれて高校生のころの友人たちと会話した。友人たちはわたしをみかけるたびに口々に大人っぽくなった、綺麗、と褒めてくれた。

 そんな彼女たちにわたしは照れたように笑いながら応じるのだった。

 恋人ができたらみんなそうなるよ、と。

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