4.
やはり彼との関係に変調を来したのはそれからかもしれない。
直感だったがわたしと会うのを避けているようにも見えた。なんとかして振り向かせたいと思っていた。なにをすれば彼が喜ぶだろう。プレゼントを見繕ってみようか。そんなことをあいた時間に考えていたりしていた。
友人たちとの他愛のない会話。あの子が、こんなことをして、そんなことになった。わたしは声を立てて笑う。最近人気の二枚目俳優について誰もが批評者となって語り合う。イケてる、イケてない。友人の一人に好きな人ができたのになんのアクションも起こせずじまいで終わっている。肩をたたき、がんばって、と励ました。
毎日の連鎖は応用の必要がない平坦として映っていた。だからわたしはなにを変えるわけでもなく、おだやかにつつがなく日常を送ることができた。そう思っていた。
帰り道、いつも集まって話す友人のひとりから声をかけられた。ちょっと寄っていこうよ、といういつもとおなじ声音とおなじ誘い方になんの疑いもなく承諾した。
わたしはいつも通りに振る舞えていたと思う。しかし一時間ほど話し続けてそろそろ店を出ようかと何となくそんな雰囲気が出始めた。そして話の終わり際、彼女から疑わしげなまなざしとともに告げられた言葉は心に重石を載せられたような気分だった。
わたしはそれでも笑いながら考えたこともないよ、と手を振って否定した。
彼女は一瞬渋い顔をしたが頭を切り替えるように軽くため息をつく。困ったことがあったらいってね、と鋭さを帯びる顔立ちの中に優しさをにじませていった。彼女は元来、よく周りの状況に気がつくやさしい子だった。自分にとても厳しい一面はあったものの、器量がよく周囲から好かれていた。
だからこれは彼女なりに心配し、声をかけただけなのだと思った。実際、わたしはその考えに至ったこともなかった。まして実行に移そうとも考えたことはなかった。
心中なんて。
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