変調

6.

 どうも彼とは妙な縁で結ばれているらしい。

 気がついたのは最近になってだった。彼からの反応が素っ気なくなってきていること、あまり会いたがらなさそうにしている雰囲気、そのあたりからは想定の一つとしては考えたことがあったが、じっさいに目にしてみると衝撃的だった。

 友人たちとも都合がつかずに一人で通りに買い物に出かけていたときだ。見覚えのある後ろ姿が前を歩いているのを見つけたが走り寄るのを踏みとどまった。彼が知らない女の子を連れだって歩いていた。楽しそうに語りあう後ろ姿は仲むつまじく、彼には近ごろのわたしにはみせることもない無防備な笑顔が浮かんでいた。

 その風景を目撃して苛立ちが立つ前に、最近の彼の言動について説明がついたことに納得をしてしまった。わたしは歩をはやめて彼に背後から近づく。

 こんにちは、と嫌みにならない声音で親しげに声をかけた。一瞬怪訝そうな表情を浮かべた彼はこちらに首を向けるなり喫驚していた。震える声でなんとか声を絞り出す。

 わたしはその様子に言及せずに、あなたが女の子と歩いているなんてめずらしいね、と話しかける。女の子の方もわたしを彼の知り合いの一人だと思ったらしくすこし訊ねると気さくな笑顔で自己紹介してくれた。それによると二人は同じ学部に在籍する先輩後輩の仲らしい。控えめでどこか人を和ませるような口調だった。服装の趣味も白を基調としたかわいらしいものだった。

 身の上話を何度か交わすとわたしは用事があるから、とその場を早足で通り過ぎた。

 彼からはついに声を聞けずじまいだった。

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