3人のモジシャン

「邪魔を、するなぁ!!」


 ――START WORDING――


 佐々木仁ささきじんがプロトドライバーの赤いボタンを押す。


 彼の黒い装甲が灰色に変わる。じんは『止』のフォームにチェンジしたのだ。


 やばい、と思う勇助ゆうすけ

 しかしそう思うのは遅かった。


 勇助ゆうすけは『止』の呪いをかけられる。

 この瞬間から五分間、勇助ゆうすけは身体を動かすことができなくなってしまった。


 ――DESTROY ERASER――


 動けなくなった勇助ゆうすけに、エネルギーの溜まったじんの拳が炸裂する。


 吹っ飛ばされる勇助ゆうすけ

 衝撃が大きかったのか、彼の文字もじるドライバーが身体から外れ、地面をガチャンガチャンと転がる。

 そして勇助ゆうすけの変身が解ける。


勇助ゆうすけ! ……そうだ、勇助ゆうすけちょっと借りるね!」


 乃々のの勇助ゆうすけを心配しなかった。

 いや、少しは心配したが、勇助ゆうすけの変身が解けたこの状況を、彼女はラッキーと考えた。


 借りる。


 乃々のの勇助ゆうすけから借りたのは、地面から拾い上げたのは、彼の文字もじるドライバーだった。


「おい乃々のの! そいつをどうするつもりだ!?」


 乃々ののはすでに文字もじるドライバーでモジシャンに変身している状態。

 勇助ゆうすけ文字もじるドライバーは不要なはずだった。


 しかし乃々ののは、自分が2つのドライバーを使って変身つもりなど毛頭ない。


 乃々ののの真意は……。


乃々のの?」


「どういうつもりだ?」


 乃々ののの取った行動に、じん勇助ゆうすけは呆気に取られる。


 彼女は勇助ゆうすけのドライバーを、ゾンビに、敵であるはずの佐々木奈央ささきなおに装着させた。

 奈央なおの背後に回りこみ、無理矢理ドライバーを装着させたのだ。


「変身!」


 ――トメル! ハネル! ハラウ! レッツ、カキトリ!!――


 乃々のの奈央なおに付けた文字もじるドライバーの赤いボタンを押した。


 そして奈央なおを変身させる。まるで24話で火野映司が泉比奈によってオーズに変身させられたように。


 マゼンダ色の装甲が奈央なおの身を包む。


 ゾンビはモジシャンになった。


 何故文字石もじいしを持たない奈央なおゾンビが変身できたのかと言うと、これはあとで十文字平じゅうもんじたいらによる考察だが、文字化もじばけによって復活させられた奈央なお文字石もじいしと同じ成分で構成されている、故に文字もじるドライバーで変身できた、とのことだ。


乃々のの、どうして……」


 勇助ゆうすけは驚愕する。

 何故、敵である佐々木奈央ささきなおゾンビをモジシャンに変身させたのか。


 乃々ののが相手に文字もじるドライバーを渡したことで、状況は最悪になった。

 こっち側は戦えるのは乃々ののだけ、相手は文字化もじばけと2人のモジシャン。明らかにこちらが不利だ、と勇助ゆうすけは思った。


 変身した奈央なおが攻撃をしかけてくる。


 奈央なおが攻撃したのは、乃々なおではなかった。勇助ゆうすけでもなかった。そして、じんでもなかった。



 マゼンダ色のモジシャンが攻撃したのは、文字化もじばけだった。

 見事な回し蹴りをネクロマンサーにお見舞いする。



「ふぅ、やっと自由に動けるようになったわ」


 奈央なおが喋った。さきほどの無意味な雑音とは異なり、今度ははっきりとした日本語を喋った。


「ありがとうね、乃々ののちゃん。私の声、ちゃんと聞いてくれて」


「ええ。……『ドライバー貸して』で合ってますよね?」


「ビンゴっ!」


 右手の親指と人差し指で丸マークを作りながら、明るい声で喋る奈央なお

 奈央なおがゾンビの時に発していた不気味な雑音の正体は、『ドライバー貸して』だった。


 彼女はゾンビ状態でも、はっきりと自我を持っていた。しかし文字化もじばけの能力により、動きをコントロールされていた。

 つまり、奈央なおゾンビは嫌々乃々のの達に攻撃をしていたのだ。


 だが、文字もじるドライバーを乃々ののに付けてもらい変身したことで、自由に動けることになった。


 文字もじるドライバーには文字石もじいしの力を利用する力、つまり操る力がある。

 その力を使って奈央なお文字化もじばけからの呪縛を解いたのだ。


奈央なお……」


 佐々木仁ささきじんがゆっくりと奈央なおに歩み寄る。


 モジシャンの装甲で分からなかったがきっと喜びの涙を流していたに違いない。

 長年夢見た妹の復活という願いが叶ったのだから。


「お兄ちゃん」


 奈央なおじんを抱きしめる。


 感動の再開。乃々のの勇助ゆうすけも貰い泣きしそうになる。






「この馬鹿兄貴っ!!」


 奈央なおはジャーマンスープレックスを仁にかける。

 とても見事で綺麗なジャーマンスープレックスで、乃々のの勇助ゆうすけの貰い涙も引っ込んだ。


「あの世でずっと見てたけどさぁ!」


 卍固め。


「モジシャンの仕事ほっぽり出して、しかも乃々ののちゃんや勇助ゆうすけくんの邪魔までして何やってんのよ!」


 四の字固め。


「どうせ乃々ののちゃんと勇助ゆうすけくんを襲ったのは、私が死んで、『女は戦うべきではない。そして女を戦わせる男は最低だ』なんて思ったんでしょ!!」

 

 パイルドライバー。

 

 様々な技を兄にかけながら叫び続ける奈央なお

 クールな兄とは違い、とても活発な妹である。


 彼女言うことは正しかった。


 実は奈央なおをモジシャンに誘ったのは、じんだった。

 奈央なおがプロト文字るドライバーで変身するきっかけを作ったのは、じんだったのだ。


 だからじんは、奈央なおが死んだのは自分の責任だと思っている、自分が奈央を巻き込まなければ、妹は死ぬことはなかったと思い込んでいる。


 じん乃々のの勇助ゆうすけを襲ったのは、WCへの復讐ではない。


 じんはいつか乃々のの勇助ゆうすけが、自分と奈央なおのような運命を辿ってしまうと懸念していた。


 だから彼は勇助ゆうすけ乃々ののからドライバーを奪うように仕向けた。

 だから彼は乃々のの勇助ゆうすけを半人前と言ったのだ。


「それと私がいつ『生き返らせてくれ』って頼んだ? いつ私が墓石の前で『助けてくれ』なんて言った? お兄ちゃんの夢枕に出て『もう一度会いたい』なんて言った?」


「だが、奈央なお。俺は……」


「俺は、何? 私のお兄ちゃんはそんな女々しい男じゃないよ! 私のお兄ちゃんは……」


 コブラツイストを解除してじんを解放する奈央なお


「私のお兄ちゃんは、強くて、かっこよくて、いつまでもくよくよしない、私の憧れのヒーローだよ。……だからお願いお兄ちゃん。私を生き返らせることに、躍起にならないで」


 それは奈央なおの必死の願い。

 じんに前を向いて歩いて欲しいというメッセージ。


 そのメッセージをじんは心で受け止めた。


 マスクで隠れてはいるが、じんの目は新たな決意が込められた色をしていたに違いない。

 もう安らかに眠っている妹を起こしたりしないという決意。


 そんな感動の場面に、ネクロマンサー文字化もじばけが空気を読まずにまた文字化もじばけを2体ほど復活させてきた。


乃々ののちゃん、あいつら添削てんさくするの手伝って。お兄ちゃんもいいよね?」


「もちろんです!」


「ああ」


 3人は戦闘態勢に入る。

 

 じん奈央なおの兄妹は復活した文字化け2体を、乃々なおはネクロマンサーと対峙する。


 佐々木ささき兄妹は見事なコンビネーションで文字化もじばけを圧倒し、速攻で倒してしまった。


 そして乃々ののはというと……。


「今までいろんな文字化もじばけを倒してきたけど……あんただけは絶対に許さない!」


 乃々ののは怒っていた。とても怒っていた。頭が爆発するくらいに怒っていた。


 命を冒涜し、奈央なおじんを戦わせようとした文字化もじばけを、乃々ののは許せなかった。


 ノガタナを左手で強く握る乃々のの


 彼女の怒りが頂点に達した時、不思議なことが起こった。


 彼女の右手に、ノガタナとは別の刀が出現したのだ。ノガタナより刀身の短い刀、小太刀と言うのが適切な武器が出現したのだ。


 新たなカタカナの出現に、勇助ゆうすけじん奈央なおは驚いた。


「さぁ、お前の罪を数えろ! 」


 だが当の乃々ののはそんなこと思わなかった。


 2刀流になった乃々ののの斬撃が文字化もじばけを切り裂く。

 右左左右、長い刀と短い刀を振り回し、文字化もじばけにダメージを与える。


 文字化もじばけは爆発し、文字石もじいしに戻った。

 乃々ののは決着がついたと確信した。


 しかし、それは間違いだった。


 文字石もじいしは、すぐさま文字化もじばけに変化した。


「え、なんで……」


「あいつの正体は『屍』。倒してもすぐ復活するわ」


「じゃあどうしたら」


 戸惑う乃々ののの肩にポンッと手を置く奈央なお


「ゾンビを倒す方法なんて簡単よ。核を壊せばいいの。……いくよお兄ちゃん!」


「ああ」


 兄妹は同時に青いボタンを押した。


 ――テンサク、フィニッシュ!!――

 ――DESTROY ERASER――


 そして同時に飛躍するじん奈央なお

 二人は空中で回転し、キックを放つ。

 

 文字化もじばけは息の合った兄妹の蹴りにより、文字石もじいしに戻る。


「今よ乃々ののちゃん!」


「はい!」


 奈央なおの指示により、瞬時に攻撃に転じる乃々のの


 さっき奈央なおは言った、ゾンビを倒すには核を壊せ、と。

 この場合、核と言うのは文字石もじいしのことだった。


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「ダブルセイバースラッシュ!」」


 乃々ののの斬撃が『屍』文字石もじいしに炸裂する。

 石はバラバラになり、砕け散った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉乃々さくらのの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 赤いモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『乃』


 怒りが頂点に達し、新たな武器を出現させた。

 

 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角勇助えすみゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青もしくはオーシャンブルーのモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『幾』と『流』

  

『止』の呪いを受け、戦線離脱。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



漢一了かんかずあき

 40代。男性

 ワードカンパニー社長。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣天音くさがきあまね

 18歳。女性

 ワードカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



十文字平じゅうもんじたいら

 40代。男性

 文字もじるドライバーの開発者。

 

 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーデューク(レモンエナジーアームズ)


 

佐々木仁ささきじん

 29歳。男性。

 黒もしくは灰色のモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『伊』と『止』


 奈央なおの説得により、前向きに生きることを決意。



佐々木奈央ささきなお

 享年20歳。女性

 佐々木仁ささきじんの妹。

 マゼンダ色のモジシャンに変身する。


 プロト文字もじるドライバーの欠陥により、死亡

 文字化けの能力により、ゾンビとして復活した。

 が、乃々の機転により人間として蘇った。

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