ライドベンターよりチーターレッグの方が速そう

 乃々のの勇助ゆうすけのことを考えながら、WワードCカンパニーのビルを出る。


 何故彼は、乃々ののが戦うことを頑なに拒んだのか、とか。


 今頃、勇助ゆうすけ文字化けもじばけなる怪人と戦っているのだろうか、とか。


 左腕は大丈夫なのだろうか、とか。


「ピンチみたいだよ、江角えすみくん」


 突然の言葉に乃々ののは立ち止まる。


 そしてゆっくりと声のした方を振り返る。


「やあ、生身で会うので初めてだね。佐倉さくら乃々ののくん」


 そこにいたのは40代くらいで、白衣を着た中年男性。


 彼はアタッシュケースをまるで手提げカバンを振り回す小学生のようにクルクル回しながら、乃々ののの顔を見ていた。


「その声、通信の時の……」


 乃々ののは男の声に覚えがあった。


 初めて変身した時に、初めて戦った時に、助言をくれた男の声だ。


「あなたは一体……いえ、それより勇助ゆうすけがピンチってどういうことですか?」


 勇助ゆうすけが危ないという言葉を聞いて、乃々ののは男の腕を掴み食って掛かる。


 男はまあまあと宥めながら、ゆっくりと乃々ののの手を外す。


「今回の文字化けもじばけはかなりの強者のようでね。まあ普段の江角えすみくんなら余裕なんだが、あの左腕のせいで苦戦しているようだ」


 クスクスと笑いながら男は勇助ゆうすけの近状を説明する。


「なんでそんなことを……」


「私はWワードCカンパニーの開発部の社員でね、その辺の事情に詳しいのだよ。それに文字るもじるドライバーどらいばーにはカメラも搭載されているから、江角えすみくんの近状も随時分かるようになっているのさ」


 やや腑に落ちない乃々ののだったが、通信機能もあるならカメラくらい搭載されているかと納得する。


 だとすればこんなところでジッとしていられない、勇助ゆうすけと助けないと、と乃々ののは焦る。

 

 だが今の乃々ののには戦う力は無い。


 たとえ戦い現場に出向いても、戦えない乃々ののは足手まといでしかない。


 でも、乃々ののはどうにかして勇助ゆうすけの力になりたいと願った。


「いい顔だ。男に尽したいと思う女の顔。いいねぇ。そんな一途な君にプレゼントだ」


 男はアタッシュケースからあるものを取り出し、乃々ののに向かって放り投げた。彼女はそれを両手で受け止める。


 そのあるものとは……。


「これって文字るもじるドライバーどらいばー!? どうしてこれが……」


 ドライバーどらいばーは現在進行形で勇助ゆうすけ文字化けもじばけになるために使っているはず。どうして、この場にドライバーどらいばーがあるのだろうか。


「こういう大事なものはね、スペアがあるものなんだよ。電王のライダーパスのようにね」


 男は不適な笑みを浮かべる。

 大事な物なら投げるなよ、と言いたい。それこそ電王のパスのように。


 ドライバーどらいばーを見た乃々ののは男を怒鳴った。


 スペアのドライバーどらいばーがあるのであれば、どうしてWワードCカンパニーは左腕を負傷している勇助ゆうすけ1人を戦わせているのか。WワードCカンパニーの誰かを変身させれば良いのではないのか、と。


一了かずあきのやつから聞いてないのかね? モジシャンもじしゃんに変身する条件」


 一了かずあきかん社長のことだ。


 社長を下の名前で呼び捨てすることから、この男の地位の高さがうかがえる。


文字石もじいしを持っている人が文字るもじるドライバーどらいばーを使えば、変身できるんですよね?」


 ふむっと言いながら男は腕を組む。


 彼のこの様子から察するに、どうやら他にまだ条件があるようだ。


「単にいしを所持してドライバーどらいばーを使うだけではモジシャンもじしゃんにはなれない。いしと人間には相性があってね。その相性が良くないとモジシャンもじしゃんにはなれないというわけさ」


 現在WワードCカンパニーが保管している文字石もじいしの数は32個、そしてモジシャンもじしゃんのことを知っているWワードCカンパニーの社員数は勇助ゆうすけを含めて約200人。

 

 その組み合わせ数は6400通り。


 その全ての組み合わせで実験したが、モジシャンもじしゃんになれたのは勇助ゆうすけ文字石もじいしの組み合わせだけだった。そう男は説明した。


「まあ、今は文字るもじるドライバーどらいばーの仕組みなどどうでもいいことだ。どうする? モジシャンもじしゃんになれる佐倉さくら乃々ののくん?」


 乃々ののはジッと文字るもじるドライバーどらいばーを見つめる。


 彼女の答えはすでに決まっていた。


モジシャンもじしゃんになれば凄い力が出せますよね? じゃあ走るスピードも上がりますか?」


「愚問だね。変身すれば当然走力も上昇する、そのスピードは四輪車並だ。ここから現場に着くのに5分もかからないね」


 男が言い終わる前に乃々のの文字るもじるドライバーどらいばーを装着。赤いボタンを押す。


「変身!」


 ――トメル! ハネル! ハラウ! レッツ、カキトリ!!――


「ありがとうございます、ベルトさん!」


 乃々ののは紅のモジシャンもじしゃんに変身するや否や、北上した。


「だからベルトさんじゃないって……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 何故か文字石もじいし無しで、赤いモジシャンもじしゃんに変身できた。


 スペアの文字るもじるドライバーどらいばーで変身した。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 左腕を負傷中。

 現在、文字化けもじばけ添削てんさく中。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 年齢不詳。男性

 WワードCカンパニー社長。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



・ベルトさん(仮名)

 40代。男性

 WワードCカンパニーの開発部社員。


 乃々ののにスペア文字るもじるドライバーどらいばーを渡した。 

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