亀裂とナズェミテルンディス!!

 WワードCカンパニー本社ビルから北に1キロの地点。


 江角えすみ勇助ゆうすけは蒼のモジシャンもじしゃんとなって文字化けもじばけと対決していた。


 そしてあの男(通称ベルトさん)が言っていたとおり苦戦していた。


 彼自慢の武器、キーメイスきーめいすも右腕だけではその真価を発揮できずにいる。


「やべえな……これじゃあ社長にクビ切られる前に殉職しちまいそうだ」


 一見この言葉から察するとまだ余裕があるように思えるが、勇助ゆうすけは内心滅茶苦茶焦っていた。


 自分は全力を出せない状況でどう戦うべきか。


 彼はそればかりを考えていた。


 必殺技で一気に決めるか? 


 いや、相手に隙ができていない状態で必殺技を発動しても避けられる。


 そうなればエネルギーが暴発して勇助ゆうすけ自身がやられるだけだ。


 ならば持久戦に持ち込み、ゆっくりとダメージを与えるか? 

 

 それもダメだ。


 勇助ゆうすけは左腕を損傷している。持久戦になれば彼の方が不利になる。


 勇助ゆうすけの考えを見透かしているのか、文字化けもじばけがゲラゲラと笑う。


 その時だった。


「せいはぁあああ!!」


 花も恥らう19歳の乙女とはとても思えないほどの勇ましい叫びと共に、乃々ののが駆けつける。飛び蹴りを文字化けもじばけに喰らわせながら。


 不意打ち蹴りを喰らった文字化けもじばけは、地面を転がる。


「大丈夫、勇助ゆうすけ!?」


乃々のの、お前そのドライバーどらいばー……」


 勇助ゆうすけもスペアの文字るもじるドライバーどらいばーの存在を知らなかったのか、彼女の着けているものを見て、とても驚いた顔をする。


 乃々のの文字化けもじばけに向かって氷のような鋭い視線を向ける。


「あんた、よくも勇助ゆうすけを……! 覚悟しなさい!!」


 文字化けもじばけは青いモジシャンもじしゃんから赤いのにターゲットに変えた。


 だがそれは乃々ののも同じだ。彼女のその目はまるで草食動物を狙う肉食動物のようだ。


「はぁあ!!」


 乃々のの文字化けもじばけに食って掛かる。


 先ほどの会話でかん社長は、乃々ののには戦いの才能があると仰った。


 それは本当だった。


 乃々ののは女性特有の柔軟な身体をしならせながら文字化けもじばけの攻撃を交わし、そしてさながら男のような大胆な攻撃を敵に浴びせる。


 自分の攻撃は外れっ放し、且つ連続で乃々ののの攻撃を喰らったせいか、文字化けもじばけの怒りのボルテージが上がっていく。


 これは後にWワードCカンパニーの研究チームが調べて分かったことなのだが、この文字化けもじばけに宿る石は『』。


 だから、この文字化けもじばけは他の化け物より沸点が低いのだ。


 だが怒りやすいということは、それだけ冷静さに欠けることと同じ意味。


 乃々ののはそれを理解していた。


「ほらほらどうしたの? その程度なの?」


 だから彼女は文字化けもじばけに挑発の言葉を投げかけた。


 敵をもっと怒らせて冷静さを削ぐために。


 もっとも、文字化けもじばけに中指だけを立てるハンドサインが通じるかどうかは謎だが。


 乃々ののの作戦は成功した。怒りに任せた文字化けもじばけの攻撃は大振りになる。


 それを彼女はかわし、敵に大きな隙を作る。


 そこを狙って乃々ののドライバーどらいばーの青いボタンを素早くプッシュする。


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


 前回は脚だったが、今回、乃々ののはエネルギーを利き腕の拳に溜める。


「ライダー……じゃなくてえーっと、モジックパンチ!!」


 モジシャンもじしゃんのパンチでモジックパンチ。


 初陣の時のフェイクキックといい、乃々のののネーミングセンスは酷い。


 充填したエネルギーの拳を彼女は、隙だらけの文字化けもじばけの腹部に浴びせる。


 その衝撃で文字化けもじばけは爆発、文字化けもじばけに戻……らなかった。


 まだ文字化けもじばけはその活動を停止させてはいなかった。


 だが相当ダメージが蓄積されているようで、足取りはフラフラ、身体からバチバチと火花が散っている。


 あと一息というところだ。


「だったら、もう1度!!」


 乃々ののがもう1度必殺パンチをおみまいしようとしたその時だった。


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


 まだ彼女はボタンを押していないのに、ドライバーどらいばーの音声がこだまする。


 だが声の主は乃々のの文字るもじるドライバーどらいばーではない。


 勇助ゆうすけだ。


 虫の息となった文字化けもじばけに、エネルギーの溜まったキーメイスきーめいす勇助ゆうすけは振りかざす。


 その打撃で今度こそ文字化けもじばけは撃破された。


 文字石もじいしが宙に舞い、勇助ゆうすけはそれを回収する。


「やったね! 勇すゆうす――」


「どうして変身した?」


 いつもより低いトーンの勇助ゆうすけに、乃々ののの言葉が止まる。


 ヒーローのピンチに仲間が駆けつける。


 仮面ライダーが好きな勇助ゆうすけにとってそんな状況は普通なら燃える展開のはずだった。


 だが、この状況は普通ではない。


 助けに来てくれた仲間は、彼の恋人なのだ。


 彼にとって、この世でもっとも大切な女性なのだ。


「あれほど変身するなと言ったのに、どうしてモジシャンもじしゃんになった?」


「そ、それは……」


乃々のの文字化けもじばけ添削てんさくでお前を蔑ろにしてしまったこともあったが、俺は今までお前の望みはできる限り叶えてきたつもりだ。でもお前は俺の願いは聞いてはくれないんだな」


 勇助ゆうすけは静かに怒っていた。


 そしてその怒りをビシビシと乃々ののは感じていた。


「一昨日、お前は言ったな。『私達、もう終わりね』って。ああ、そのとおりだ。もう俺達はこれで終わりだ」


「待って勇助ゆうすけ!!」


「じゃあな、佐倉さくらさん」


 乃々ののの制止を無視し、勇助ゆうすけ文字石もじいしを持ってその場を去った。


 さよならの言葉と他人行儀な呼び名を残して。






 そんな2人を隠れて覗く、1人の男の影があった。


 だが、彼らの脳と心は今それどころではなく、その存在に気付けなかった。


「女ヒーローか。気に入らねえな」


 男は小指にはめた指輪を見つめながら、物陰に消えた。






 同時刻、WワードCカンパニー社長室にて。


「何か用かな、一了かずあき?」


「何故、佐倉さくら乃々のの文字るもじるドライバーどらいばーを渡した、たいら?」


「ああ、そのことか」


 たいらと呼ばれた、乃々ののドライバーどらいばーを渡した男はクスクスと笑う。


「君だって佐倉さくら乃々ののくんをモジシャンもじしゃんにする気だったじゃないか」


「私はお前のように強硬手段を取るつもりはなかった」


「心外だな。私は彼女の背中を押しただけだよ」

 

 無言でたいらを睨むかん社長。


 静寂に怒る社長をたいらは宥める。


「まあまあ。文字化けもじばけは無事に添削てんさくできたんだし。これでどうして佐倉さくら乃々ののくんが変身できた原因も調べることができる。原因さえ解明できれば、モジシャンもじしゃんを量産することも可能かもしれない。それに彼女も恋人のために戦うことができる。WIN-WINの関係じゃないか」


「……いいだろう、この件はこれで不問にしてやる。だがその代わり、その原因を迅速に解明しろ」


「了解、社長」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 何故か文字石もじいし無しで、赤いモジシャンもじしゃんに変身できる。


 勇助ゆうすけの言葉を無視して、モジシャンもじしゃんに変身してしまった。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々のののの彼氏。

 青いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 左腕を負傷中。

 自分の助言を無視して変身した乃々ののに大激怒。彼女と別れる決意をする。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 年齢不詳。男性

 WワードCカンパニー社長。


 ベルトさんをたいらと呼ぶ。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



たいら

 40代。男性

 WワードCカンパニーの開発部社員。


 かん社長を呼び捨てにできるほどの地位にいる。



・謎の男

 年齢不詳。男性。


 物陰から乃々のの勇助ゆうすけを除いていた謎の人物。

 奇妙な指輪を小指につけている。 

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