人類皆仮面ライダー好き

「まず、この町に出没する怪人について。君はどれくらい知っている?」


「と言われても……。どこからともなく現れて、毎回ヒーローに倒されるってことくらいしか」


 社長の質問に乃々ののは丁寧に答える。まあ、そのヒーローとは勇助ゆうすけのことなのだが。


「あの怪人を、我々は『文字化けもじばけ』と呼んでいる」


 文字化けもじばけ。本来はコンピュータで文字を表示する際に、正しく文字が表示されず意味不明な記号が表示される現象のこと。


 何故そんな用語を怪人の総称にしたのだろうか。


「これを見たまえ」


 かん草垣くさがきに指で何かを指示する。


 言葉で言われなくても社長の意図が理解できている草垣くさがきは、社長席の机に置いてあったアタッシュケースを、乃々のの達のテーブルに移動させる。


 そして乃々ののは鍵を開け、ケースを開いた。


 中に入っていたのは、大きなアタッシュケースのわりに、とても小さな石だった。


 人間の小指より小さい石、何かの結晶のようにも見える。


 だが、これほど大きなケースに入れるということは、この石はかん達にとってとても大事なのだろう。


「これは『文字石もじいし』と我々は名付けている石だ。文字石もじいしには常識を超えた力が備わっている。文字化けもじばけいしの力が暴走した姿だ。そして文字化けもじばけ添削てんさく……倒せば文字石もじいしに戻る。ちなみにそれは、先日君が殲滅した文字化けもじばけから回収したものだ」


 文字石もじいしは個々によって秘められている力が異なる。『水』の力を秘めたものや『炎』の力が込められたものもある。そう社長は説明する。


「……触ってみてもいいですか?」


 乃々ののは社長に許可を貰い、彼女は手にとっていしをジーっと凝視する。

 目を凝らして観察するが、見れば見るほどただの石にしか見えない。


江角えすみ勇助ゆうすけ、そして君が使用した変身アイテム……あれは『文字るもじるドライバーどらいばー』と言ってWワードCカンパニーが開発したものだ。そして装着し変身した者を『モジシャンもじしゃん』と言う」


 いしを観察する乃々に社長は話を続ける。


 ちなみに、モジシャンもじしゃんというのは文字を扱うマジシャンを縮めて名付けられたことはあまり知られていない。


文字るもじるドライバーどらいばーは誰にも使用できるわけではない。変身には文字石もじいしが必要だ」


 文字るもじるドライバーどらいばー文字石もじいしに秘められた力を引き出し、装着者にその力を付加させるものだ。


 さっき社長が『いしを渡せ』と言った理由がこれだ。


 文字るもじるドライバーどらいばー文字石もじいしを持つ者にしか扱えない。


 故にかん草垣くさがき乃々のの文字石もじいしを持っていると勘違いしたのだ。


 なお、勇助ゆうすけがいつも身に着けていた変なペンダント、あの中に文字石もじいしを加工した物。


 それを身に着けていた勇助ゆうすけは変身できるのだ。


 ちなみに勇助ゆうすけ文字石もじいしは『』の力が込められている。このいしを持つと身体能力が少しだけ上昇する。


「ていうか文字るもじるドライバーどらいばーって……誰が命名したのか知らないですけど、完全に仮面ライダーを意識していますよね?」


「あ、やっぱり乃々ののもそう思うよな」


 勇助ゆうすけ乃々ののの発言に賛同する。


「失敬なことを言うな。モジシャンもじしゃんは二輪車には乗らない、故に仮面ライダーではない」


「でもバイクじゃなくて車に乗る仮面ライダーもいましたよ?」


「バイクを持っていない仮面ライダーも結構いるしな」


「バイクに変形するライダーも数名ございましたね」


 何故か秘書の草垣くさがきまで仮面ライダー談義に参加してくる。


 社長はゴホンと咳払いして、話が脱線したことを全員に注意する。


「とにかく、佐倉さくら乃々のの。もしそれと似たようないしを持っているのであれば、我々に渡したまえ」


「……やっぱりこんないし、私持っていません」


 乃々ののいしをケースに戻す。


 乃々ののは決して嘘は言っていない、本当に持っていないのだ。


 だが、そうなると謎が残る。


 文字るもじるドライバーどらいばーで変身できるのは、文字石もじいしを持つ者のみ。


 所持していない乃々ののがどうして変身できたのだろうか。


佐倉さくら乃々のの、1つ提案がある」


 コーヒーを飲んで一呼吸置き、かん社長はある提案を乃々ののに告げた。


「君もモジシャンもじしゃんとして戦ってもらいたい」


 社長の発言に1番驚いたのは乃々ののではなく、勇助ゆうすけだった。


「おい社長!」


「君が文字化けもじばけと戦う姿は我々も見ていた。初陣にしてはとてもよく戦ったと言える。断言しよう、君には戦う才能がある」


 勇助ゆうすけの言葉を無視してかん乃々ののに話を続ける。


「君が何故ドライバーどらいばーを扱えたのかも我々は気になる。君がこれからもドライバーどらいばーを使って変身し、そのデータを我々が調べれば、その原因も分かるはずだ」


 乃々ののは考える。


 確かに彼女自身もどうして変身できたのか気になる。


 その理由が分かるのであれば、変身するのもやぶさかではない。


「わ、私は――」


「その必要は無い」


 乃々ののかんに提案の返事をしようとしたら、勇助ゆうすけが割って話しに入ってきた。


乃々ののはこれ以上変身しない。だから変身した理由を突き止める必要も無い。モジシャンもじしゃんは俺1人で十分だ。文字化けもじばけは俺だけで倒す」


「……その負傷した腕で、か?」


 社長の指摘に勇助ゆうすけは左腕を押さえる。


江角えすみ勇助ゆうすけ。この際だから言っておこう。1つ、その左腕の負傷。2つ、よく確認もせずに倒したと舞い上がり文字化けもじばけに不意打ちを受けたこと。そして3つ、民間人に変身させたこと。君に対する評価はガタ落ちだ。はっきり言おう、君にはがっかりだ」


「だから、俺を解任して乃々ののを後任にするっていうのか?」


「ふむ、それも悪くないな」


 勇助ゆうすけはドンっと強くテーブルを叩く。


 コーヒーカップが揺れるように、乃々ののの心もざわつく。


 こんなに怒る勇助ゆうすけを見るのは、乃々ののにとって初めてだった。


「おい乃々のの! お前からも言ってやれ、私は変身しませんってな!」


 その時だった。

 乃々ののの携帯の緊急怪人速報が鳴り響いた。


江角えすみさん。ここから北に1キロの地点です」


 草垣くさがき天音あまねが携帯端末を操作しながら、怪人の出現ポイントを勇助ゆうすけに告げる。


「話は終わりだ。俺は行く。乃々のの、お前は帰れ。そして今日話したことは忘れろ。……もし次にお前が変身することがあれば、俺も黙っちゃいないからな」


 そう言い残し勇助ゆうすけは社長室から走り去った。


「それで、佐倉さくら乃々のの。君はどうしたい? 私は君の口から、君自身の答えを聞きたい」


「私は……。すみません、やっぱりお断りします」


 乃々ののはさっきの勇助ゆうすけの言葉が気になっていた。


 次に変身したら、黙っちゃいない。


 もし乃々ののが変身したら、勇助ゆうすけは一体どうするのだろうか。彼女には見当がつかなかった。


「そうか。君がそう言うのなら仕方ない。私も潔く諦めよう。だがくれぐれも、今話したことは内密にしてくれ」


「分かりました」


 乃々ののはすっかり冷め切ってアイスとなったコーヒーを飲み、かん草垣くさがきに礼をして社長室を後にした。


 秘書の草垣くさがきが車で家まで送ると言ったが、乃々ののは1人で考えたいことがあるからと断った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 何故か文字石もじいし無しで、赤いモジシャンもじしゃんに変身できた。


 かん社長曰く、戦う才能がある。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 左腕を負傷中。

 乃々ののモジシャンもじしゃんに変身することに猛反対。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 年齢不詳。男性

 WワードCカンパニー社長。


 世代的に、平成ライダーより昭和ライダーが好き。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 この人も仮面ライダーが好き。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2) 

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