第2章 すれ違う男女の想い

里中さんみたいな秘書って素敵

 7月9日。


 ワードカンパニーわーどかんぱにー、通称WC。世界有数の文房具開発会社である。決して、ウォータークローゼットではない。


 昔WワードCカンパニーが開発した空中に描けるクレヨンや液体を切るハサミは世界的に大ヒットし、世界一の開発会社となった。クレヨンは特に幼児に大人気で、乃々ののも子供の頃遊んだ経験がある。


 そんな会社の、とても豪華な社長室の応接用のソファに、乃々のの勇助ゆうすけは座っていた。


 そして彼らに対峙するように、テーブルを挟んだ向こう側のソファにWワードCカンパニー社長、かん一了かずあきが堂々と座っていた。



 時間は少し、数時間ほど遡る。


 乃々ののは自宅でこれからのことを考えていた。


 勇助ゆうすけは好きで乃々ののとのデートをすっぽかしたわけではない、ヒーローとの二束のわらじで仕方なかったのだ。


 それを知った乃々ののは、勇助ゆうすけに謝りたいと思った。


 そしてやり直したいと思った。


 でも彼にどんな言葉を送ればいいのか、乃々ののは分からなかった。


 そもそも、ヒステリックな自分がしたことを勇助ゆうすけは許してくれるのかさえ、彼女には分からなかった。


 その時、インターフォンが鳴る。


「はーい」


 慌てて乃々ののは玄関へ走り、扉を開ける。


 誰だろう勇助ゆうすけだろうか、と乃々ののは思う。


 しかし、訪問者は勇助ゆうすけどころか男でさえなかった。


 扉の前にいたのは、女性だった。


「突然すみません、わたくしWワードCカンパニーで秘書をしています、草垣くさがきと申します」


 女性は名刺を乃々ののに手渡す。


 名刺にはWワードCカンパニーの紋章と『草垣くさがき天音あまね』という名前が書かれていた。


 大会社の秘書さんが何の用だろうと、乃々ののは名刺を見ながら疑問に思う。


佐倉さくら乃々のの様ですね? 社長のかんがお待ちです。車を用意しております、ご同行ください」


「ち、ちょっと待ってください! いきなり何なんですか!? WワードCカンパニーの社長が一体……」


「フェイクキック。ふふ……いえ、失礼。なかなか愉快なネーミングセンスをお持ちで」


 草垣くさがきの言葉に、乃々ののはたじろいだ。

 

 フェイクキック。あの戦いで、乃々ののが叫んだ即席の技名だ。


 乃々ののは確信した、この人は私が変身して怪人を倒したことを知っている、おそらく勇助ゆうすけがヒーローであることも知っている、と。


「(もしかして、昨日の通信相手が、社長さん?)」


「詳細はかん本人からお話します。ご同行を」

 

 車に揺られること10と数分。


 乃々ののWワードCカンパニー本社に着いた。首が痛くなるくらいの高いビル。


「どうぞこちらへ。社長室まで」


 草垣くさがき秘書に案内され、乃々ののは自動ドアをくぐってビルに入る。


 2人の女性は他のより一段と豪華なエレベーターに乗る。


 草垣くさがきが言うには、社長室直通のエレベーターらしい。ボタンも1Fか社長室と書かれたボタンしかなかった。


 機械の箱の中で慣性の法則を感じながら、乃々のの達は社長室の扉の前に到着した。


 草垣くさがきは扉に3回ノックをする。


「社長、佐倉さくら様をお連れしました」


「……入りたまえ」


 扉の向こうから渋い声が聞こえる。乃々のの草垣くさがきは扉を開けて、入室した。


 部屋に入った乃々ののは驚愕した。部屋が自分の家より豪華だったから、という理由ではない。


 確かに社長室はとても豪華だった。でも彼女が驚いた理由はそれだけではない。


 社長室に、江角えすみ勇助ゆうすけがいたのだ。まだ左腕が治っていないようで、包帯を巻いている。


「どうぞおかけください」


 秘書が乃々ののにソファに腰を下ろすように勧める。乃々ののは言われるがまま、勇助ゆうすけの隣に座った。


 乃々のの勇助ゆうすけの横顔を見る。彼はとても難しい顔をしていた。


「はじめまして、WワードCカンパニー社長のかんだ」


 社長の代わりに秘書の草垣くさがきが、彼の名刺を乃々ののに手渡す。


 社長の声を聞いた乃々ののは、彼がこの前の通信相手ではないことに気付いた。声の感じもそうだが、喋り方が違う。


「君にはいろいろ聞きたいことがある。質問だ。江角えすみ勇助ゆうすけの正体、世間でヒーローと呼ばれる存在の正体が何者なのか、誰かに他言していないな?」


 乃々ののは首を横にブンブン振る。


 彼女は誰にも、勇助ゆうすけがヒーローであることや自分も変身して怪人を倒したことを、話していない。


 話したところで信じてもらえないという気持ちもあったが、なんとなく話してはいけない気がしたのだ。だから誰にも話していない。


「では次の話題だ。単刀直入に言おう。君が持っているいしを、我々に渡しなさい」


 乃々ののはキョトンとした顔をする。彼女は社長の言っている言葉の意味が分からなかった。


「あの、いしって何のことですか? 私、宝石とか持っていないんですけど」


 乃々ののはあまり宝石に興味が無く、買うことは無かった。


 勇助ゆうすけから宝石のプレゼントを貰ったこともない。大会社の社長が欲しがるような石なんて彼女は持っていない。あってせいぜい、ウィザードリングぐらいだ。


「嘘をつくな。君は江角えすみ勇助ゆうすけドライバーどらいばーを使って変身した。あれはいしを持つ者にしか扱えない。つまり君はいしを持っているということだ。もう一度言う、いしを渡しなさい」


 社長の上から目線の態度に乃々ののはムッとする。


 さきほども言ったが彼女はいしなんて持っていない。


 それなのに何度も渡せと言われると、乃々ののもイライラする。


「だからいしなんて持ってないって言っているじゃないですか!」


「だから言っただろう社長。乃々ののは持っていないって。だいたい持っていたら俺が気付くっての」


 社長と秘書は互いに顔を見合う。そして草垣くさがきかんの耳で何かヒソヒソと話す。


「良いだろう、1から話す。但し、他言しないように願おう」


「……分かりました」


「今コーヒーを淹れます」


 秘書は壁際のコーヒーメーカーで3人分のコーヒーを用意する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。


 宝石は持ってないが、ウィザードの指輪は持っている。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いヒーローに変身する。


 乃々ののに宝石をプレゼントしたことは無い。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 年齢不詳。男性

 WワードCカンパニー社長。


 偉そうな態度をとっているが、実際に偉い人。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 やり手秘書だが、実は乃々のの勇助ゆうすけより年下。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2) 


 

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