さあ、心ゆくまで懺悔しなさい


 クラスの半数が異世界召喚されたのは昼休みの終わるあたりあたりだった。

 まだ、全員は教室に戻って来ていないし、大抵がてんでに空いている椅子に座ったり、机に腰を乗せ掛けたりしながら、友人同士おしゃべりしている状態にあった。


 少年は教科書を読むふりをして、こっそりと幼馴染をみをみていた。それを少女達に笑い交わされていることまでは知らない。

 少年の身長は低め、体付きは太め、目はほそめ。イケメンでも格好良くもないが、どことなく愛敬があった。

 額の生えぎわが薄いようなのを気にして髪をぺたりと分けている。眉も薄くて少し八の字に下がり、いつも困ったように気弱げな笑いを浮かべて、みるからに人畜無害そうな様子をしていた。


 幼馴染みが自分の席に戻ろうと立ち上がり、前の入口から不良らが話ながらが入って来る。

 浅井イケメンと側近を取りまく女子の笑い声が上がった。

 その不等辺三角形の中心に魔法陣みたいな光が出現した。

 床ではなく臍の下辺あたりの位置だ。

 光は石を投げ込まれた池の波紋のように拡がる。

 円い池の水に腰から下まで浸かったかのようだ。

 その波を被った者達の体が、色みたいなグラデーションのある、متشرف متشرفة بمعرفتكアラビア文字みたいな光に分解した。

 そして、池の底に沈んでいって、蛍のようにすうっと消える。


 誰もが固まってしまって咄嗟とっさに反応できないでいる。

 異世界召喚、転移魔法陣!? そんなのあり?!

 少年も混乱の極みにあった。

 幼馴染みの姿が消え、魔法陣が明滅する。

 閉じようとしているのか。

 少年は覚悟を決める。



「なんまいだぶほうれんげきょう――ええとアーメン」

 浄土真宗日蓮宗とクリスチャンから怒りをかいそうな、お祈りを唱えながら幼馴染みを追って跳び込んだ。


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