おもちかえりは大顰蹙(だいひんしゅく)


 どうしてこうなったんだ。


 僕は足の据りがわるくて硬い木の椅子に腰を下ろして頭を抱える。

 粗末なベッドには木乃伊ミイラのように包帯でぐるぐる巻になったものが横たえられていた。

 したがって僕には寝る場所がない。

 それはいいさ、床で毛布にくるまれる。

 けど、こんなとこで死なれたら、自分が使うときに気持ち悪い。



 ここは別に宿屋とかじゃない。こんなものお持ち込みできないからな。

 狭く汚くてもお城の中だ。ほかのクラスメートやつらと待遇がちがうだけだ。門番にへこへこと頭を下げて、どうにか中に入れてもらった。

 地階なので湿気があるし、埃だらけで黴臭くもある。

 たぶん、下働きの召使い部屋かなんかだろう。いまさら、慣れっこさ。

 僕にとってこの国アストリアは最低だ。


 巻いた包帯に血が滲んでる。

 僕の覚えられた初級の治癒魔法なんかじゃ、外側の出血をいくらか抑える程度だ。

 当然、内臓とかはどうにもならない。ぶちまけられたのを掻き集め、お腹に突っ込んでふさいだだけた。

 どうせ、助からないだろうと内心では思ってる。

 これ以上ないくらい酷い怪我をした儘、状態停止の魔法にかかっていたんだ。

 僕が触れたら共鳴するような感じで、封晶結界がガラスみたいに砕けた。

 どうしてそんなことになったかわからない。

 ゴブリンなんていくら死んだってかまわないけど、それが自分のせいとなると心穏やかじゃいられなかった。

 手を尽くしてみてやっぱりだめだったと自分を納得させたかった。




 石造りの城はベルサイユ宮殿みたいに豪華じゃないし、白亜のなんとかってほど優美でもない。

 かといって要塞ってほど無骨でもなくて、なんちゃって中世のような感じだ。

 勇者召喚なんてやらかすくらいだし、そこそこの国力はあるんじゃないかな。


“癒やしの聖女”になっている幼馴染みサヤカを探すと訓練施設にいるようだ。

 土下座して治療を頼んだが蔑みと嫌悪の眼差しで見下ろされただけだった。

 うん、そうだよね。ゴブリンなんてゴキブリ以下だよね。


「なあ、無能力者のーなし。いくら女にモテねえからって、死にかけたゴブリン拾って来てまでヤろうってのか?」

 男子はあからさまに僕を嘲った。

「うわーっ、キモ! ひくわ」

 女子はひそひそと囁きかわす。

「ぷっくくく、そんなの拾っちゃだめよ。汚いからもとのとこに返して来なさいよ」

 揶揄からかいの声をかける子もいた。




 川へ流すか町の外に捨ててくればよかったと後悔する。

 そうしなかったのは、優しさなんかじゃない。するだけの意気地いくじがなかったからだ。

 つくづく僕はどうしようもない。ほんとに自分が嫌になっちまう。




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