美少女奴隷買いにいったらお金がたりなくて、死にかけのゴブリン娘をおしつけられた

壺中天

プロローグ 美少女奴隷買いにいったらお金がたんなかった


「お客さん、こんなことして貰っちゃこまるあるよ。

 もう売りものにならないよ、どうしてくれるあるか」

 太ったアラブ人のような衣裳で、怪しい中国人のようが口調の商人に詰め寄られた。

 その身長は低い。哀しいことに僕はそれとたいしてかわならい。

 体格は――こ、こいつよりはマシだぞ。


「べ、弁償します」

 うわ~っ、どうしよう。

 もともと美少女奴隷買いに来たのに、お金が足りなくてすごすご戻るとこだったんだよな。

 モテない男の夢とかだけじゃなてさ、溺れる者がすがった最後のわらだったんだけど――。


「魔法にも運搬にも、お金かかってるあるよ。払えるあるのか?」

 のぞき込むように僕の顔をねめ回す。


「……それは」

 口ごもる。いやな汗がダラダラと流れる。

 ごめんなさい、デブが汗かくとキモイよね。



「足りないあるけど、仕方ないある。

 ああ、それはもういらないある。

 おもちかえりして貰えるあるか、

 ひらひらと手を振られる。

 カラッケツになった僕はうなだれた。

 みないようにしていた足もとの残骸ものが目に入る。


 柩みたいな封晶の欠片が散らばる中、その血は濃い赤の林檎のようで、まるでそれが人の血のように赤かった。

 血溜まりに浸かる短めの髪は雪のように白く、うつぶせの顔は片側から半分以上がつぶれている。砕けた頭蓋骨も氷砂糖のように白い。

 裸の背中は白い月のような肌で、お尻はとてつもない巨根で犯されたように裂けて、食虫花のように赤い肉が口をあいている。

 羽根をがれた紋白蝶のように両腕がなかった。

 広げられた足はすんなりとしていて、きめこまやかな雪花石膏のような腿が、どこかしら背徳感をそそっていた。

 下になったおなかから食み出た臓物は、烏黒鶏のように黒く黒檀のように黒かった。



 魅惑と嫌悪、そして恐怖があった。

 いいようもないグロテスクさで、吐き気がせずにいられない。此奴こいつは亜人ですらない、人に似て人ならざる魔物。


 ――それは人間の少女のような、白いゴブリンの雌だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る