No.5

「なるほど、記載されていたとおり持ち物はこのストーンから出し入れをすることが出来るみたいだね」


 ゴリラ体系から一転、少女のような少年が主体となって調べる。


「お金が三万マリク、トランプ、リバーシ、チェス、専用スマホが初期装備か。とりあえずこれさえあればずっとゲームが出来ないと言うことはなさそうだな」


「えっ、スマホなんてあるの?わっ、ほんとだ。何のゲームがあるのかな」


 小奈美はストーンに並んでいるうちから早速スマホをクリックして取り出すと、嬉しそうにして両手で持った。


「金儲けじゃないからガチャ率とかよくなってると良いわね」


「うわっ、これは!」


 小奈美は驚いたように叫ぶ。


「なんだ、どうかしたか?」


「これ、ダウンロードするのにお金かかるよ。それとよく見たら内課金ありだって書いてある。うう、こんなところは変わらないのか」


「まあ、確かに全部無料だとみんなこれしかやらなくなりそうだしな」


 仁の鋭い指摘が入る。

 このゲームしか出来ない世界でスマホゲームをやれるとなったら、みんなは真っ先にそれにのめり込むことになるだろう。そうなったとき、この世界は作られた意味を無くしてしまうことになる。


 なぜならこの世界で動くことがなくなるからだ。


「とりあえず先に他の機能も確認しておこうか。そうだね、持ち物についてはこのストーンで出し入れが出来る他、フィルター機能が備わっているようだ」


「少なくとも身につけていない限り盗難が起きる心配はなさそうね」


 幸江は携帯は使うとき以外はしまった方が良いと遠回しに喚起を行う。


「対戦戦績・ポイント内訳はそのままだね、戦いの履歴などが見れるらしいけどまだ何もしてないから何も書かれていない」


「そんじゃ次はフレンド・パーティか。フレンドは分かるけどパーティは何するんだろうな、ギルド連携とかそんなものか?」


「えーっと、ちょっと待ってね。フレンドは通話とかチャットとかメールが出来るようになるだけみたいだけれど、パーティはもう少し機能があるみたい」


 それぞれがストーンをいじっているのだが、武士の動かす速度がもの凄く速くて、他の三人は追いついていない。むしろ彼に任せているような状態だ。


「それはどんなやつなの?」


「初期は十人まで。そんで効果はパーティ内にいる人は味方関係となって、その間でゲームをしても死ぬことはなくなるんだって」


「えー、何それ!」


 抗議したのは小奈美だ。ハードモードとエキスパートモードは死ぬ可能性のあるゲームが存在しているが、これだと大分不公平に思えてしまう。


「多分、実際に入るダンジョン系のゲームがあったりするから、そのような一部の命を賭けるゲームでフレンドキルが起こらないようにしたり、逆に味方に殺されたりしないようにするための救済処置みたいなものなんじゃないかな」


「ありえるわね。命を賭けるダンジョンで味方に殺される恐怖まであったら、それはもう続けられたものじゃないし」


「な、なるほど」


 小奈美は納得したようだ。事実このシステムはハードモード以上を選んだ人が、個人的な恨みを駆られてダンジョンとかでは目殺されると言うことを少なくすることを目的としている。


 無論すでに元の世界の人たちはもう関わってこれることはまず無いが、このシステムがなければハードモード以上を選んでしまった人たちは、ポイントとか人生を謳歌などと言っている場合じゃなくなる。


 つまりこのくらいの救済処置がなければただのデスゲームだ。


「つまり俺たちは少なくともパーティ内では安心して行動を行えると言うことだな」


 ハードモードを選んだ仁に、エキスパートモードを選んだ武士。

 この二人がもしも小奈美達に殺されるような攻撃を受けても、パーティならば突然死ぬことはないというわけだ。


「それじゃあ、まずこの四人でパーティ組んじゃいましょうか」


 幸江の提案に全員が賛成を挙げた。

 というわけで早速フレンドになることから始め、そのまま四人はパーティを組む。すると、ここで一つの問題が生じた。


「これ、パーティ名どうする?」


 そう、パーティの名前に関する問題だ。リーダーはすでに決まっているので良いとしても、これはみんなで考えるべきものである。


「僕はミ○ーズがいいかな」

「止めなさいよ、しかも大体九人もいないし」

「なら俺はゼル○の伝説で」

「あなたのその脳どうにかならないの?」

「さすがにそれはかっこ悪いかな、眼鏡が台無しだね」

「なんだと、いいじゃないか!それと眼鏡は関係なああああい!」


 女子二人に反対され、仁は眼鏡を強くかけ直した。


「そういう小奈美達は何かありませんか?」

「えーっと、四人だからヨニンクロニクルとか?」

「それもどこかで聞いたことのある名だな、却下」

「ひっど、何この眼鏡、似合ってないよ」

「何だと、眼鏡は関係ないだろ!」


「あなたたち、一旦自分の好きなゲームから離れてくれない?」


 ため息をつくのはただ一人、ツンデレになりたかった幸江である。


「なら幸江は何かあるのか?」

「ふっ、ふん。あるわけないじゃにゃい」


 瞬間。男子二人が声を上げて笑い出した。


「ぷはーはははは、何噛んでんだこいつ!」

「あははははははは、やっぱ君にはツンデレなんか似合わないよ、今すぐそのツインテールを下ろした方が良いって」


「き、貴様らああああああ!」

「あわわ、更にキャラ崩壊してるよ幸江ちゃん!」


 それでも笑い声は高く響く。

 周囲の人たちが何事からとこちらに目を向けているが、その視線がかなり冷たい。


「ははっはっはっは、ゲホゲホっ!」

「あははははは、だめだ、笑いが止まらないよ」


 ぼこっ、ばこっ。


 その音が響いたところで騒がしさは静まった。


「ふんっ、私に刃向かうとこうなるのよ、よく覚えておきなさい!」


「幸江さんマジ悪役っす」

「はい、笑いこけてすみませんでした」



 ザ・ジャパニーズ・ド・ゲ・ザ☆(キラッ)



「それで、幸江ちゃん何かある?」


「ないと言ったんだけど、まあそうね。考えられるとするなら四人いるから……西遊記とかどうか」


「却下」

「無理」

「それはちょっと」


「最後のねまで言わせなさいよ、馬鹿!」


 幸江の案は三人によってバッサリと切り捨てられた。

 どうもこの四人は名前のセンスがないようだった。


「こうなったら僕のユーザー名からホノカ研究会にしよう」


 そうして武士から突然案が下されたわけだが、それはさらなる波乱を巻き起こす。


「ねえ、ちょっと待って、あなたユーザー名なんて言った?」

「お、俺もちょっとよく聞き取れなかったなあ」


 特に仁と幸江の視線が熱い、というか痛い。


「ホノカって言ったけど。もちろんあの超スーパー伝説アイドルグループミュ……」


 ばこっ。


 武士はゲージがなくなって倒れた。


「やっぱ俺たち三人だけで組まねえ?」

「私もそれ賛成」

「そうね、さすがに自分の名前までに使うとねえ、しかも下の方とか」


 ばさっ。


 武士が回復して起き上がった。


「待てっ、待ってくれ、これは愛だ!無償の愛だ!もう会えなくなると思って、せめてこれだけは忘れないようにと思って、そうしたんだ!」


「うわっ、泣きつくなゴリラ!」


「もうゴリラじゃ無ーい!」


 もとの素顔をしらなければここまで引くことはなかっただろうに。

 残念ながら武士は中々受け入れられなかった。


「それで結局どうしましょうか?」

「あたしはもうノーコメントよ」


 傷ついたのか幸江は喋らない、そして男二人はいちゃついて話を聞いていない。


 大丈夫なのか、このパーティ。

 そう思う小奈美だった。

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