No.3
これはこの異世界に来るまでの簡単な流れである。
VRMMOのゲームが主流となった現代社会のゲーム業界において、先日その一歩先を前進するようなゲームが紹介された。
それは世界中の最新技術を組み込んで開発された異世界に、転生してそこで生活を行うという画期的で前代未聞のゲームである。
それらは日本のとある会社が主軸となって、世界五十以上のゲーム企業と、その他様々な宇宙開発企業や研究所、大手人造製造業者などが結集して作られたものであり、まさかの異世界を作り上げたことに世界中は驚愕した。
もともとは多くなりすぎた人口をどうにかしようと、宇宙開発企業などが地球以外に住める環境を作るという計画で画策されたものなのであるが、これがゲーム会社の目にとまって現在に至ったのである。
それからしばらくの時を待ってして発表されたこのゲームは、あまりにも嘘っぽいと最初は批判されたものだが、いざ実証実験をしてみると誰一人そこから帰ってこなかったものだから、半年後には本当なのかも知れないと噂が広がっていき、受け入れられるようになっていった。
もちろんそれはゲーム好きな人だけでなく、人生をやり直したい人や最初から異世界で過ごしたい人などの希望も多く、段々とその数を増やしていった。
故に世界は各人に選択を求めた。
この希望も無い世界で残りの人生を過ごすか
また何も無い世界で新たに人生を始めるか
そしてゲーム研究会に所属していた瀬川小奈美、出雲幸江、天堂仁、道武士の四人は家族などと別れて異世界に行くことを決めたのである。
転生とだけあってこちらから持って行けるものは何もない。
その代わりこちらのものは全部おいていかなければならない。
故に家族がいる人には自分の全財産を、家族がいない人にとってはそれを企業などに明け渡した。
そうしてそのための装置が置いてある日本のとある施設にいるのが現在だ。
「うわあ、すごい人の人数だね」
「コミケ会場よりもこれは人が多いぞ」
見る限り埋め尽くすのは、人、人、人。
その人数の多さにこの施設内は冷房が効いているにもかかわらず、とても熱気が籠もっている。
本来なら日本以外にも設置すべきではあるのだが、異世界に転生したときにぶれてしまっては困ると言うことでこの施設一カ所のみに機械は設置されており、こうして世界中からもの凄い人が押し寄せている。
「私コミケ行ったことないから分からないや」
人の数に圧倒されながら小奈美は見渡そうとするが、見えるのは人の背だけで他には何にも目には入ってこない。
身長が低いのはこういう時困るのである。
「それは惜しいことをしたな。だがさすがにそこまで多くないと思うぞ」
そう後ろから呟くのは少しマッチョででかい男性、この研究会の部長であり最初に異世界に行こうと提案した武士である。
彼は見た目からして完全に野球とかしてそうなスポーツ系だが、根っからのゲーマーであり、部室でゲームを一晩中やっていることもしばしばあったくらいだ。
「まっ、そうでしょうね。一応転生を行うための時間指定は人によって支持されているわけだし」
そして最後とばかりに片手でスマホゲームの操作をする幸江だが、これらももちろん持って行けないので、行く前に廃棄処分となる。
いままで積み重ねてきたデータとも分かれなければならないのだ。
あまりスマホゲーム以外を知らない小奈美にとっては、少し辛いことであるが。
「俺たちの転生予定開始時刻はあと八時間後、とりあえず本登録を済ませて何か食事でも食べておこうか」
「おっ、仁君の意見に賛成!そうと決まれば急ごっ!」
「焦らないの、小奈美。順番は回ってくるんだから」
「だが、本登録会場は並んでいるかも知れない、遅れたら面倒だしそこまでは急いだ方が良いかもしれないな」
遅くても六時間前までに行く準備が出来たことを知らせる本登録をしなければならないのだが、四人が来たのは人の多さも含めると結構ギリギリな時間帯だ。
天井に示されている本登録会場の案内板を頼りに彼らは向かうのだった。
人混みをかき分けること十分、案外会場までは早く辿り着いたが、やはり人は蛇のようにうなりを掛けてずらずらと並んでいる。
「うわあー、間に合うかな?」
「本登録は自分のアバターを先に決めたり、自分の情報を入力したりするところだからね、いくらその台数が多くても時間はかかるだろうね」
「あまり心配を増やすようなこと言わないでくれる?」
「まあ二時間あればなんとかなるだろ」
それぞれ言葉を交わしながら彼女たちは待つことにした。
結果としては時間ギリギリのところで入り込むことになったのであるが、時間内であるので何も問題はない。
それぞれは各自、ボックス型の機械で自分がどのような姿になるのかを細かく設定していった。時間は一時間と少し物足りないくらいだが、しょうがないことだろう。
その後は国籍を捨て、無法エリアへと入り、並ぶだけとなる。
それは三時間前までに入ればいいので、多少なりの時間はあるのだが、遅さが後になって響き、彼らが集合して空いてそうな店を探しているうちに最後の食事を取る機会を失ってしまっていたのだった。
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