ベッド・バッド

いすみ 静江

ある避暑地のベッド

 ある避暑地の寮をエッックス女子中学校一年生で三泊四日のスケッチ旅行に向かった。


 大型バス泣かせの急カーブを見事に切り抜け、生徒達は拍手で讃えた。


「いやっはー。着いたー。長かったね」

 私は、うんと伸びをした。

 後ろには、テニスコート。

 素敵な避暑地だなと思った。


「班毎に並んでください。八人ずつですよ」

 担任の先生は、可愛らしく優しくて好きだ。


 学校では、ちょっと騒がしいかなと思うクラスも、外ではおとなしい。


 きちんと並んで、諸注意を聞きながら、寮の中を案内された。


 瓶の自販機があるエントランス。

 窓の高いキレイなアトリエ。

 ピアノのある広間。

 段差の楽しめる渡り廊下。

 会議室かと思った食堂。

 離れにあるタイルのお風呂。

 洗面所にトイレ。


 そして、泊まるベッドのある所。


「うわー。木の随分しっかりしたベッド」

 私は、アトリエなどに比べたら、ここは少し古い建物のような感じがした。

「丁度八人なんだ。向かい合って四人ずつの二段ベッド……。下で、トランプとかできそうだね。ひそひそ話もできそう」


「はいはい、寝る所を決めようよ」

 班長さんに言われてしまった。


 私は、奥の上の段にした。

 一応、柵があるから落ちはしないだろう。


   ***


 今日のスケジュールをこなし、いよいよお休みタイムとなった。

 要するに就寝なのだが、皆、直ぐには寝る訳がない。

 はしゃいでいたら勿論、担任の先生がいらっしゃった。

 しまった。

 皆、急いでベッドに入る。

 私も気を付けて梯子につかまり、布団にささっと入った。


「もう、寝る時間でしょう? 明日はハイキングもあるから、しっかり眠りましょうね」

 部屋毎にお話をしてくれた。

「はーい……」

「はい……」

 皆、寝たふりか、布団で身を隠した。


「……」


 それから暫く後、私は、異様な臭いにむせった。


「ぐっ……。う。けほっけほっ」

 元々、喘息持ちなので、敏感ではあったのだろう。


「げほっ……。けほっ」

 何だろう。

 ここだけ、独特の臭いがする。

 覚えがあるけれども、何の臭いかは分からない。

 班の中の一人はもう寝てしまった。

 ひそひそ話をする二人はいる。

 何だろう、この臭い。


 もしかして……。

 ベッドの下?

 少し厚めのマットがあるのに、こっちまで、臭いが漂ってくるの?


 ぞくり……。


 ちょっと待ってよ。

 もう寝ないといけないのに、なかなか寝付けないじゃない。

 うわー、結構弱いんだ私。

 弟もオカルトを怖がり過ぎて、神職に就くらしいし。


 ぞくり……。


 思い込みだけならいいよ。

 そう、そうかも知れない。

 こうなったら、マットの下を見てみるしかない……。


「えい……」


 私は固まってしまった。


 おびただしい数の何かが敷き詰められていた……。


「あ……。あ……」


 悲鳴と言うのは直ぐに出ないこともある。


「ひいいー!」


 ガタガタと階段を降りて、ベッドの沢山ある部屋から、飛び出そうとした時、担任の先生とぶつかった。


「どうしたの? 声が聞こえたけれど……」


「ベッドの下に、ベッドの下に……」


「慌てないで。落ち着きましょう」

 先生と一緒にベッドに戻った。


「先生、ベッドの下を見てください……」

 とにかく確かめたかった。


「これは……」


「……お線香に見えるけど」


 そうなのです。

 たまたま泊まったベッドにおびただしい数のお線香が敷き詰められていたのです。


 先生は、気にしなくても大丈夫よと仰ってくれました。


 でも、お線香があった理由……。

 誰も知りませんでした。



 背筋が……。


 凍ったのは私だけでしょうか……。






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ベッド・バッド いすみ 静江 @uhi_cna

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