僕の七夕

 7月。そろそろ七夕も近付いてきて、なんだかSOS団の方も色々騒がしくなっているようだ。やれやれ、くれぐれもこちらに危害を加えないでおくれよ。そんなことを考えながら、僕は教室で休み時間を過ごしていた。いやしかし、日光が教室の中に入ってきて暑いな。

「なあ、守家は小さい頃、七夕でどんな願い事を書いたんだ?」

何となく気になって、僕は側に座る守家に尋ねる。

「そうだな……覚えてるのだと母さんの病気が早く治りますように、かな」

「あー……」

しまった、うかつに聞くべきではなかったな。

 先月のことだ。ある日の放課後、雨がしとしと降る外の景色をよそに、僕は父の日のプレゼントの送り状を部室で書いていた。守家が部室にやってくると僕に何をしているのかを聞いてきたので、簡単にいきさつを話した。

「へえ、真面目だなあ」

「そうか?君は父の日にプレゼントは贈らないのかい」

「うーん……あまり、そういった記念日に興味がないんだよな」

そうして、話題は自分達の親の話に移った。僕は昔は日本で両親と暮らしていたが、諸々の事情によりホンジュラスに両親が暮らすことになった。守家は最初驚いた表情をしていたが、次第に僕の話に聞き入っていた。

「とすると今は、一人暮らしなのか?」と守家が問いかける。

「そうだな」

「大変そうだ……」

「まあ、ゴミ出しや身の回りの管理も全部自分でしなければいけないから、そこは大変だな。だが、誰にも気兼ねなく過ごせるのは大きいぞ。守家はどうなんだ?」と、僕は何の気なしに聞いた。

「あー……えと、今は父さんと、あと姉さんとで暮らしてるんだ。母さんは、三年ほど前に病気で亡くなった」

僕は衝撃のあまりしばらく言葉を失った。だが、

「そ、そうだったのか。その、聞いてしまって申し訳なかったな」

と、なんとか言葉を紡いだ。

「いや、いいよ。事実だし」と守家が返す。

「しかし……」ええい、こんな雰囲気、どうすればいいんだ。

「俺も贈るよ」

「?」

「父の日のプレゼント。贈ってみようかなって」

「おお、そうか。きっと親御さんも喜んでくれるさ」

 ──こういった経緯があったのだ。

「叶わない願いもあるよな」と守家が言うもんだから、返事に困ってしまった。

「そそ、そうだよな!僕も昔は昆虫博士になりたいと書いたもんだ!」

「昆虫が好きだったのか」

「ああ。そうだな」

「意外だなぁ」

と、その日はそんな休み時間を過ごした。


 部活帰り、部員全員で商店街の笹の短冊にお願いを書くことになった。守家は『日々を堅実に』、佐東は『世界平和!!』、御門は『平穏な毎日を過ごせますように』、児林は『楽しい未来!』と皆それぞれ自由に書いてある。僕は打倒SOS団……というのも考えたが、結局『プロジェクトが成功しますように』とした。児林に求められ僕の短冊を見せると、

「ふふっ、部長、一緒に頑張りましょうね」

と児林は満開の笑顔で言った。守家は

「プロジェクト、絶対成功させような」

と僕を真っ直ぐ見てやけに真剣に言うので、思わず僕も守家をじっと見返してしまった。そこを割って入るように、佐東が御門を連れて何を書いたのか僕に聞いてくる。そんな風に、今年の僕の七夕は和気あいあいとした雰囲気だった。七夕はそれほど良い思い出がなかったから、こういう七夕は本当に楽しいな。そういえば、中学時代のある年の七夕の夜、色々あって一人でネットカフェに行ったことがある。そこで、男性二人に話しかけられた。一人はちょうど、守家ぐらいの背丈だったかな。二人の顔はよく思い出せないが、なんだか仲睦まじい様子で、二人によるとカップルだという。僕はこれでも、人並みに恋人を持ちたいという願望はある。いつぞやの二人のようになれるだろうか。

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